【no.304】ヨーロッパのAIスタートアップ40%がAIを使っていない…… 大事なのは定義か?

ヨーロッパのAIスタートアップ40%がAIを使っていない…… 大事なのは定義か?

EUのAIスタートアップ企業2830社の40%が、実際には機械学習の技術を使用していないという事実が、ロンドンを拠点とする投資会社であるMMCベンチャーズの調査で明かされた。

スタートアップがAI企業を名乗る効用

出典:MMC調査資料

MMCは、EU内13カ国の約2,830社のAIスタートアップを調査し、各社の

  • 活動
  • 焦点
  • 資金

を確認。調査責任者のDavid Kelnar氏は、「40%のケースでAIを使っている証拠について言及されていないことがわかった」とForbes誌に語っている。

投資家にも、プロダクトに使われている技術がAIと呼べるものかどうかを精査する知識がないケースが多い。にも関わらず、MMCによれば、AIスタートアップ企業への投資額は2013年から2018年の5年間で15倍に増加している。それだけ「AI」という言葉は投資家にとっても魅力的に映っている。

出典:MMC調査資料

つまり、ディープラーニング、機械学習を使っていなくとも、堂々とAIを掲げ、投資家や消費者を「騙す」ことができてしまう。それどころか、従業員すらも偽っている認識がないかもしれない。

今なお決着しない「AIの定義」問題

Photo by Waldemar Brandt on Unsplash

問題を起こす原因は、「AI」という言葉の定義の曖昧さにある。「何を以てAIとするか」は各識者によっても見解が異なるのだ。

日本においても、以下のように、各研究者が異なる定義を提唱している。

中島秀之
公立はこだて未来大学
武田英明
国立情報学研究所
人工的につくられた、知能を持つ実態。あるいはそれをつくろうとすることによって知能自体を研究する分野である
西田 豊明
京都大学
「知能を持つメカ」ないしは「心を持つメカ」である
溝口理一郎
北陸先端科学技術大学院
人工的につくった知的な振る舞いをするためのもの(システム)である
長尾真
京都大学
人間の頭脳活動を極限までシミュレートするシステムである。人工的に作る新しい知能の世界である
浅田稔
大阪大学
知能の定義が明確でないので、人工知能を明確に定義できない
松原 仁
公立はこだて未来大学
究極には人間と区別が付かない人工的な知能のこと。
池上 高志
東京大学
自然にわれわれがペットや人に接触するような、情動と冗談に満ちた相互作用を、物理法則に関係なく、あるいは逆らって、人工的につくり出せるシステム
山口 高平
慶應義塾大学
人の知的な振る舞いを模倣・支援・超越するための構成的システム
栗原 聡
電気通信大学
人工的につくられる知能であるが、その知能のレベルは人を超えているものを想像している
山川 宏
ドワンゴ人工知能研究所
計算機知能のうちで、人間が直接・間接に設計する場合を人工知能と呼んで良いのではないかと思う
松尾 豊
東京大学
人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術

出典:松尾 豊「人工知能は人間を超えるか」P45より

AIをシステムやメカとする定義もある一方、大阪大学 浅田氏の定義のように、そもそも人間の知能すら定義できない以上、AIも定義できないという声も存在する。

このため、人間が持つ「AIを使っているかどうか」という調査も、何を基準として調査すべきかはハッキリしない。AIの定義が人によって違うのであれば、極論、どのような技術であってもAIと言ってしまえばそれはAIになってしまうからだ。

言葉の定義ではなく、本質を見極める

少なくともビジネスの世界で、現時点でAIと呼ばれるものは、機械学習、ディープラーニングなどの技術だろう。

しかし、最も大事なのはAIそのものの定義ではない。AIはあくまでツールのひとつにすぎず、今回の調査でAIを使っていないとされた40%の企業も、何らかの形で顧客に価値を提供していることは間違いないのだ。

大事なのは、AIを理解し、選択肢の1つとすること。言葉に踊らされず、自分たちは何を成し遂げたいのか。そして、そのために必要なツールは何かを考えることだ。AIを使わずに課題を解決できるのであれば、それで問題はないのだから。