AIは蜃気楼か、ディープラーニングの功罪から新型コロナまで、白熱した議論の中身 (1/6)
マシンは人間の知能にどこまで近づいたのか、創造性を発揮できるのか。ディープラーニングはどこが画期的だったのか。これからの課題とは。新型コロナとデータサイエンティストの関係とは。日本ディープラーニング協会の産業活用促進委員会が2020年5月19日にオンライン開催した「JDLA内部勉強会」で、丸山宏氏、森正弥氏、石山洸氏、佐藤聡氏の4人の論客が、AI/ディープラーニングの現在と新型コロナの関係について、白熱した議論を戦わせた。
AIは技術者にとって蜃気楼のようなもの?
佐藤 皆さんはディープラーニングに関わってきて、社会実装やその他のチャレンジで数多くの案件をこなしてきています。視聴者の方々は、「ディープラーニングで何ができるだろう、自分の業務で使えないか」ということを知りたいのではないかと思います。イケているディープラーニングの活用方法があれば、ご紹介いただきたいと思います。
森 個人的に注目しているトレンドとして、「クリエイティブAI」と総称できるようなAIアプリケーションのトレンドがあります。大量のデータを学習して予測や分類をしたり、法則性を発見したりという形でのAI活用ではなく、そこで学んだことを創造的なことに生かしていこうというアプリケーションです。絵を描く、小説を書く、作曲をするなど、アーティスト的なものが多かったですが、最近は記事を書く、広告のクリエイティブを作るなど、実際のビジネスへの応用が始まってきました。こうした動きに注目しています。
(注目する理由は、)経済的な価値のある、創造的なコンテンツをAIができるようになると、「人は何をやるんだ」という議論になります。人間のポテンシャルや、やるべきことを見出す意味でも注目しています。
佐藤 「AI」「人工知能」という言葉は独り歩きしていると思います。「創造性、知能があるのが人間だ」という考え方がありますが、皆さんの考える知能とは何なのでしょうか。
石山 創薬の事例もあり、AIは化学一般に使えます。味覚については「こういう味にしたかったらこういう配合にしてください」といった提案ができます。そういった商品企画は、芸術のレベルではないものの創造力があるといえるし、思ったより現場で活用されています。比較的クリエイティブなものへのAI活用が始まっているイメージです。料理でも、松嶋(啓介)さんのようなミシュランクラスの人が、「AIを活用したら何かできるのではないか」と活動を始めています。
佐藤 日本ディープラーニング協会が、あえて「ディープラーニング」という名前を使って(活動を)始めたのには、「AI」「人工知能」というと広くなってしまうのでやめよう、ディープラーニングにフォーカスしようという意図があります。諸説あるとは思いますが、知能の定義の1つは「複雑な目標を達成できる能力」です。絵画、音楽、創薬などは非常に複雑な目標ですが、これを解決したら知能といえるのでしょうか。
例えば今(、AIは)かなりの精度で物体認識ができます。これはちょっと前までは複雑な目標で、「これが人工知能なんです」と言えたかもしれません。だが、今となっては疑問です。「StarCraft」という戦略ゲームがあり、非常に複雑な目標を達成する能力がないと勝者になれませんが、(勝利できれば)これは「知能」と言えるのでしょうか。今は「知能」というかもしれないけれど、(後になれば)「いやいやそうじゃなくて」ということが、繰り返されている気がします。私は「AI」「人工知能」というものがあるのかというと、技術者にとっては蜃気楼(しんきろう)のようなものではないかと常々思っています。
何か新しいものが出てきて、知能的に見えると、「人工知能だ」と思ってそこに歩んでいくが、たどり着いてみると、違うものがある。今回は、「ディープラーニング」というものがあり、とても有効で、今は「人工知能」とも言われる。(だが、そのうち)これが普通になってしまって、次にまた新しい人工知能っぽいものが見えてくるのではないか。
私はこれを「AI蜃気楼説」と呼んでいます。追いかけていくが、逃げていくというようなものなのかなと思っています。