【no.358】AI分野の技術発展戦略の策定に向けた会合、財政措置など議論

AI分野の技術発展戦略の策定に向けた会合、財政措置など議論

米国や中国を中心として世界的に人工知能(AI)への関心が高まり、多くの国でAI分野の政府戦略・プログラムが策定される中、ロシアでも同様の動きがみられている。プーチン大統領は5月30日、AI分野の技術発展戦略策定に向けた会合を開催。戦略の方向性や実現に向けた財政措置について議論を行った。

冒頭で、プーチン大統領は「AIはビッグデータ分析に基づく最適結果を導き出すもので、マネジメント、教育、ヘルスケアなど国民生活・経済・労働生産性に衝撃を与えるもの」と述べ、既に多くの国がAIに関する行動計画を策定している中で、ロシアでは携帯電話・インターネットの高い普及率と世界的にみて安価な通信料、豊富な数学・物理に強い人材供給とIT専門家育成システムが確立されており、国産技術が潜在的な競争力(ポテンシャル)を有していると指摘した。この競争力をAI分野にも生かすために、a.新しい数学的手法などの基盤創設や人間脳に類似するAI作業の確立、b.複雑な課題の解決に向けた人材育成のための国際数学センターの開設(モスクワ、サンクトペテルブルク、ソチ)、才能ある人材の引き留めや海外からの専門家誘致、それに向けた金銭・就労面でのインセンティブの供与、c.AI開発・活用に向けた知財保護面を含む柔軟な法制度整備とAI分野への民間投資誘致、d.データの加工・保管に関する法制度改正、e.AI導入に関する国民への啓発、の5点が重要だと強調した。

デジタル経済政策を担当しているマクシム・アキモフ副首相は、AI技術発展戦略の実現に関する手法と財政措置について言及。戦略の実現に向けた各種措置が明記される、連邦プログラム「AI」を2019年10月までに策定し、先進的な研究機関支援を含むアルゴリズム、数学的方法分野の研究支援、官民での技術開発・複製の試験実施などに向け、6年間で900億ルーブル(約1,530億円、1ルーブル=約1.7円)の財政拠出を行うと述べた。

他方、デジタル経済戦略策定に参画する、ロシア最大手行ズベルバンクは本会合開催前の5月20日に、AI分野の発展(注)には、2024年までに1,000億ルーブル、2030年までに1,800億ルーブルの予算が必要だと試算し、900億ルーブルでは足りないとしている。ズベルバンクの評価によると、AI技術の開発・商業化への投資は主に、横断技術(AI分野で横断的活用できる技術)に向けることが肝要とし、投資額は解決課題の内容や、活用する横断技術の完成度合、完成品の技術的複雑性次第としながらも、2030年までに基礎調査に200億ルーブル、横断技術の試作開発支援に400億ルーブル、全分野の横断技術支援に1,200億ルーブルが必要としている(電子メディア「プライム」5月20日)。

(注)ズベルバンクが策定に携わっている「AI発展戦略」では、AI技術の定義を「コンピュータビジョン(コンピュータによるデジタル画像・動画の理解に向けた人間の視覚システムの自動化を追求するもの)」「自然言語処理(人間が用いている自然言語をコンピュータに処理させる技術。自然言語をコンピュータが理解しやすい表現に変換、その逆の処理が含まれる)」「レコメンダシステム(特定ユーザーが興味を持つと思われる情報を「おすすめ」として提示するもの)」「音声認識」「自動機械学習技術」などとしている。