【no.373】「AIウイスキー」「AI俳句」も可能、人工知能が“発想と開発”を劇的に変える

「AIウイスキー」「AI俳句」も可能、人工知能が“発想と開発”を劇的に変える

新商品開発に人工知能(AI)を導入することで、AIと協働して新たなアイデアを生み出すことはできないだろうか。たとえば、新たな商品をAIから提案されたらどうだろう。消費者の好み、ニーズ、これまでの販売数を加味し、その傾向を踏まえた商品を開発するのだ。我々は提案された多様な商品から選択し、さらにその上で創造力を発揮することにより、これまで以上に受け入れられる商品を生み出せるかもしれない。

武蔵野大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科長 准教授 中西 崇文

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商品開発をAIと進めるようにするとどんなことができるだろうか

(Photo/Getty Images)

AIが考え出す新しいウイスキー

スウェーデンのウイスキー会社マックミラは、米マイクロソフトやフィンランドのコンサルティングファーム フォーカインドと連携して、新たなウイスキーを機械学習によって考案する「AIウイスキー」の提供を開始した。

ウイスキー作りといえば、樽の状態や形、その配列、原酒やブレンドの方法など、その組み合わせにより、さまざまな個性を持った酒が生み出せることで知られる。新しいウイスキーを完成させるには、専門家や熟練した職人の知識、勘やコツが必要になることが多いのだ。

そのような専門家とAI連携して新たなウイスキーを考案することにどんな意義があるだろうか。AIウイスキーでは、既存の味や樽の組み合わせ、消費者の好み、販売数などを機械学習にかけることで、7000万件以上のレシピを自動生成した。この中から専門家や熟練職人が最適なウイスキーを選び出す作業を担っている。

AIが新商品開発に参加する意義

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AIウイスキーが示す、商品開発分野におけるAIの可能性とは

(Photo/Getty Images)

7000万件以上のレシピから専門家や熟練職人が選び出す作業はいかにも大変そうだ。逆に作業が増えてしまうのではないか。

専門家や熟練した職人は、過去の経験に基づいた知識、勘やコツから、どのような組み合わせがどのような味になるのかだいたい予測がつくのだそうだ。そのため、過去に発売したことのあるラインアップに近い味だけど新しいものを作りたい場合に役立つのだという。

過去に発売したラインアップから、共通の樽の状態や形や配列、原酒やブレンドの方法などの項目について、7000万件から「絞り込み検索」をかける。絞り込まれた中から発想できなかったような組み合わせを選べば、「これまでのラインアップに近いけれど新しい味」を簡単に選択できるというわけだ。

そのように選ばれたレシピを専門家や熟練した職人によって検証していけば、一から樽の状態や形や配列、原酒やブレンドの方法の組み合わせを考えるよりも簡単に新しい味にたどり着くことができる。

つまり、AIを利用することで消費者の好み、販売数などの制約条件から「新たな味」を膨大に生み出すことができる。それを発想の源として人間が最終的に新たなウイスキーの味を決めるのだ。

AIウイスキーにより、人間では考えつかないレシピが生まれ、既存のメニューの改善に生かせれば、製品開発のスピードが上がる可能性もある。製品の改良が進めば既存のウイスキーファンの満足度も向上し、新たな購買層獲得に寄与できるだろう。

AIによる製品開発を実現できたのはウイスキーには限らない。ウイスキーのブレンドなど「組み合わせ」によりその性質が決まるような製品やサービスなら応用される可能性が十分ある。

ここで注目したいのは、AIウイスキーが生み出した「レシピ数」である。7000万件というレシピ数は、人間には到底出せない。AIは制約条件を満たす解を大量に列挙するような「創造」は非常に得意だ。ただ、先ほど述べた通り、現状のAIでは大量に生み出したアイデアの中から「どれがよいか」を判断する機能を実現することは難しい。

このような「創造性を発揮するAI」を有効活用するには何が必要なのだろうか。他のAIなどとの比較から考察しよう。