【no.445】日本独自の生命観が培った、AIへの想像力と創造力

日本独自の生命観が培った、AIへの想像力と創造力

現実世界とデジタル世界が交差する「ミラーワールド」。ウェブ、SNSに続く、第三の巨大デジタルプラットフォームの登場を前に、AIはどのように発展し、どうミラーワールドに実装されるのだろうか。その可能性を巡って、クーガー最高経営責任者(CEO)の石井敦、スクウェア・エニックスのリードAIリサーチャーの三宅陽一郎、全脳アーキテクチャ・イニシアティブ代表の山川宏が鼎談を繰り広げた。前編である本稿では、3人が日本におけるAIやニューラルネットワーク研究のルーツをたどる。

ロボットは「仲間」。Vチューバーという「見立て遊び」。日本独特の生命観が、日本のAI研究に与えた影響とは?

日本のAIは「八百万神」にカテゴライズされた?

石井敦:ぼくは海外に行く機会が多いのですが、日本はAIに対するアイデアや応用方法が独特だと感じることが多々あります。

日本では昔からAIを描いたアニメがあったり、『攻殻機動隊』のような作品が生まれたりしていますよね。アニメやゲーム、漫画に加え、ニューラルネットワークの原点的存在である福島邦彦さん[編註:元・大阪大学教授。現在はファジィシステム研究所特別研究員]の「ネオコグニトロン」というアイデアが出てきたのもこの国です。それはなぜなのか、おふたりはどう思われますか?

三宅陽一郎:やはり日本で独特なのは生命観だと思うんですよね。「八百万神」のような場所に、AIも一員として加わるような。

石井:確かに、AIは最初から寄り添うものという前提になっていますよね。

石井 敦|ATSUSHI ISHII
クーガー最高経営責任者(CEO)。電気通信大学客員研究員、ブロックチェーン技術コミュニティ「Blockchain EXE」代表。IBMを経て、楽天やインフォシークの大規模検索エンジン開発、日米韓を横断したオンラインゲーム開発プロジェクトの統括、Amazon Robotics Challenge参加チームへの技術支援や共同開発、ホンダへのAIラーニングシミュレーター提供、「NEDO次世代AIプロジェクト」でのクラウドロボティクス開発統括などを務める。現在は「AI×AR×ブロックチェーン」によるテクノロジー「Connectome」の開発を進めている。

三宅:海外の演出では、ロボットはあくまでサーヴァント(召使い)であるという考え方をされます。例えば『スター・ウォーズ』に登場する「R2-D2」も「C-3PO」も、基本的にはサーヴァントであると。でも日本人はロボットを仲間として考えるんですよね。「鉄腕アトム」も、日本人にとっては友達だしクラスメートです。でも、海外からしたらアトムは人類のために戦って当然の存在だという見方になる。

海外では人間とロボットには上下関係がありますが、日本人では横並びがデフォルトとなっているんですよね。だから日本で登場した「AIBO」も、ペットや友達、家族といった親しい存在として、感情をもった生命として側にいてくれることに居心地のよさを感じるんです。スマートスピーカーにしても、「とりあえず顔を描いておいてよ」という話になる。筒だけ置かれても困ってしまうんですよね。一方海外では、人の姿をしていいのは人間だけで、それ以外になんで顔を書くんだという議論になるんです。

石井:「人間様」というような感覚ですかね。

三宅: そうです。人間と下々は分ける。だからスピーカーは筒でいいんだ、ということです。

日本のゲーム産業やアニメ産業が恵まれているのは、キャラクターを本物として扱ってもらえるところなんです。架空のものだとわかってても、あたかも実在するかのように見立てる能力が非常に高い。アニメだろうがゲームだろうが、キャラクターには「さん」づけしろ、とかですね。これは日本が突出していますが、アジア諸国もそういう傾向があるんですよね。一方そのほかの国では「生命と非生命はくっきり分けないといけない」という考え方が強い。

石井:そうですよね。海外の映画だとだいたい戦争してますもんね、AIと人間。

三宅:そう。日本には特有のキャラクター文化があるんです。その延長で、キャラクターと人工知能を結びつけるエージェントの技術も、日本のセンスは非常にいいと思っています。キャラクターをインターフェイスとして上手に使い、さまざまなサーヴィスをつくっていくのは日本のほうが圧倒的にうまい。海外は、それをやる土壌が弱いんです。

その一方で、海外には最初から社会にサーヴァント型AIの居場所が用意されています。しかも、こちらのほうが技術的難易度が比較的低いんです。命令すればいいだけなので。

しかし、日本が求めるような友達型AIは難しい。「言わなくてもわかってよ、アトム」「そんなこと言われても、そんなAI技術まだありません」みたいな(笑)。だから、日本はAIに親しみがあるわりに、求められる技術は非常に高度なんですよね。