【no.587】アマゾンは物流センターで「ソーシャル・ディスタンスの確保」にAIを活用する

アマゾンは物流センターで「ソーシャル・ディスタンスの確保」にAIを活用する

新型コロナウイルスの感染拡大によって消費者からの注文が激増しているアマゾン。物流センターにおける従業員の安全管理について批判が相次ぐなか、防犯カメラやセンサー、拡張現実(AR)などさまざまな技術を活用することで、ソーシャル・ディスタンスの確保を徹底しようと試みている。

新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)が始まってから、外出規制の影響でAmazonで買物をする人が急増した。物流センターは注文への対応に四苦八苦し、従業員たちからは職場の安全管理よりも利益が優先されているとの批判が噴出している。

これに対してアマゾンは自社の方針を擁護し、感染対策の詳細の公表を遅らせてきた。そして同社はようやく、倉庫などでのソーシャル・ディスタンシング(社会的な距離の確保)に人工知能(AI)を活用していることを明らかにした。施設内の防犯カメラの映像を分析し、距離が近くなりすぎそうな場合に警告を発するシステムだという。

「Proxemics(プロクセミクス)」と呼ばれるこのAIは、アマゾンのロボティクス部門の特別チームが開発したもので、3月半ばから運用が始まった。アマゾンはテクノロジーを駆使して物流センターでのソーシャル・ディスタンスの確保に努めているが、Proxemicsもそのひとつで、現在は世界で1,000カ所以上の拠点で導入されている。

システムは数分ごとに防犯カメラの映像を取得し、人と人との距離が十分ではないと思われる事例があった場合、状況を確認する部署に送信する。なお、プライヴァシー保護のため従業員の顔には自動的にぼかしがかかるようになっている。

防犯カメラには物体の長さを確認するような機能はついていないが、AIは人間の大きさに基づいて距離を割り出し、危険の有無を判定する。警告が出た画像をスタッフが確認して感染のリスクがあると判断すれば、設備管理の責任者に詳細を報告して対応を促すという仕組みだ。

Amazon
アマゾンの物流センターのスタッフはマスクの着用と対人距離の確保が求められている。PHOTOGRAPH BY AMAZON

対人距離の警告は減少
新しいシステムは人の密集も判別できるようになっており、防犯カメラに15人以上が同時に写ると警告が出る。例えば、検温ポイントなどに人が集まってしまった場合に、すぐに注意を促すことができるという。

アマゾンはProxemicsについて、新型コロナウイルスの感染対策以外で利用することはないと明言している。こうしたシステムについては4月のブログ投稿ですでに言及していたが、これまで詳細については明らかにしていなかった。

ロボティクス部門担当ヴァイスプレジテントのブラッド・ポーターはProxemicsについて、建物内のどこに感染リスクが潜んでいるのか発見し、新型コロナウイルスからスタッフを守るためにどのような対策をとればいいのか考える上で役立つと説明している。具体的には、プラスティックの防御壁の設置場所や、動線を指示する床の表示を調整すべきところなどがわかるという。

Proxemicsで得られたデータを参考に各拠点が独自に対応した結果、3月下旬と4月上旬には防犯カメラの映像からの警告件数が急速に減少した。ポーターは「施設内で働く人たちに、アマゾンは対人距離の確保に本気で取り組んでいるという決意を伝えることができたと考えています」と話す。「いまではソーシャル・ディスタンシングを誰もが受け入れていますが、3月時点ではきちんと実践してもらうために説得が必要だったのです」

ポーターはまた、職場でのルールが守られているか確認するためにアルゴリズムを用いることは、最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾスの経営方針とも一致すると言う。実際、ベゾスの有名な言葉に「善意ではうまくいかないが、仕組みをつくれば機能する」というものがある。