【no.597】くら寿司が挑む、マグロの「AI仕入れ」。新商品「AIまぐろ」を実食…プロの目はデジタル伝承できるか?

くら寿司が挑む、マグロの「AI仕入れ」。新商品「AIまぐろ」を実食…プロの目はデジタル伝承できるか?

くら寿司の「仕入れ」改革
「TUNA SCOPE」のデモ機。既にAIマグロ向けのキハダマグロの仕入れに使い始めている。

「TUNA SCOPE」のデモ機。尾の断面を撮影することで、仲買人の経験値を学習したAIが画像認識で判断する。新商品「極み熟成 AIまぐろ」向けのキハダマグロの仕入れに使うという。

撮影:伊藤有

「くら寿司は新たな改革にチャレンジする。新しい仕入れ様式。まずは寿司ネタでもっとも人気のあるマグロからスタートする」と、会見の中で、くら寿司の田中信取締役副社長は語った。

「新しい仕入れ様式」とは、これまで現地まで仲買人などが赴いて判断していたマグロのランク付け判断を、ディープラーニング技術を使ったAIアプリ「TUNA SCOPE」で判別する試みだ。同社によると、大手チェーンでの導入は国内初だという。アプリ開発は、電通とそのグループ企業であるISID(電通国際情報サービス)が担当している。

電通がプロジェクトを開始したのはおよそ3年前。AIの開発にあたっては、仲買人が実際に見ているマグロの尾の断面を撮影して、数千枚の学習用データをつくり、そのマグロが実際にどんな等級だったのかを教師データとして用いた。その後、くら寿司の導入が決まった。

くら寿司によると、一人前の仲買人になるには、一般に10年とも言われる下積みが必要。さらに、その「学び方」や「判別方法」はほぼマニュアル化されておらず、技術の伝承が課題になっている。

TUNA SCOPEを使うことで、プロの「眼」の技術をデジタル化し、およそ90%以上の精度でマグロの等級のAランク(最上級)/Bランク(上級)/Mランク(並品)を判別できるという。

くら寿司のTUNA SCOPE

実際のマグロの尾の断面に見立てた写真を撮影すると、判別のデモが体験できる。どれがAランクだかわかりますか?(ちなみに答えは、左からAランク、Bランク、Mランク)。

撮影:伊藤有

くら寿司によると、マグロの仕入れへの利用から取り組んだのは、マグロがメジャーな商品であることに加えて、「品質チェックがほかの魚種に比べて難しい」からだと明かす。

水揚げされた生の魚では、目の濁りや体の弾力など、質判断の情報量が多い。一方、マグロは基本、冷凍されたままで、尾の断面の色あいなどだけで、仲買人の経験値を総動員して「良質さ」を見分ける。くら寿司の仕入れ担当であっても、その質を見分けるのは簡単なことではないという。

それに加えて、コロナ禍で仕入れの現地に赴くことが制限される現状では、今後、仕入れの質の問題が出てくる、という課題意識がある。