【no.611】AIプロジェクトは外注すればするほど失敗する

AIプロジェクトは外注すればするほど失敗する

立ち上がっては消える企業のAIプロジェクト

企業のAI(人工知能)にかける期待は大きく、「AIベンチャー」という呼び方もよく見るようになった。トヨタやファナックなど、大手企業との提携を次々に発表してきたプリファード・ネットワークスは、新聞記事でもお馴染みだろう。

企業がAIベンチャーと組む事例は多い。企業同士をマッチングさせる「Creww」や「AUBA」といったサービスでも、多くのAIベンチャーと事業会社が組んだ事例を報告している。ディープラーニング(深層学習)をはじめとしたAIが今日のように注目されるとは、長年研究や開発に携わってきた筆者も予想していなかった。

しかし、こうしたAIベンチャーに飛び込んでくる開発プロジェクトはほとんどが失敗する。注目が集まるほど、誤った認識を持ったままAI開発に乗り出す人も多いようだ。華々しい事例が報告されている一方で、その何倍もの失敗が表沙汰になることなく立ち上がっては消えている。ITの開発依頼に慣れた人でも、AIのプロジェクトで成果を出すのは簡単ではない。結論から言えば、AI開発は外注が向いていないのだ。

■ AI開発をIT開発と同様に考えてはいけない

分かりやすい失敗パターンは「AIを魔法のように誤解している」というものだ。

例えば、AIを導入すれば業務が無人化できるという誤解だ。原理上、精度が100%のAIは存在しない。業務で使うAIを作るには、「AIが間違えた時にどうするか」の設計が欠かせないのだ。業界では、AIが間違えた場合などを人間が補完するように業務サイクルを設計する「Human in the Loop(HITL)」という考え方も登場している。実際、名刺管理サービスの「Sansan」ではAIの文字認識を人間が修正しているし、フリマアプリの「メルカリ」では規約違反の出品を人間とAIが協力してチェックしている。

AIと人間が補完するように設計できれば、人力だけでは実現できない効率や精度のビジネスが作れるかもしれない。しかし、AIをよく知らない企業の中には「とにかく精度を上げて間違いを無くせ」と注文するケースが多い。HITLを提案しても、期待している成果が業務の無人化では受け入れてもらえない。こういうプロジェクトは必ず失敗する。

もう一つ失敗しやすいのが、「ITの発注に慣れている企業のプロジェクト」だ。AIもITの一種なのだから、ITに慣れている企業の方がプロジェクトが成功しやすいと思う読者もいるのではないだろうか。しかし、ITの外注と同じようにAIの開発を依頼すると、ほとんどの場合は上手くいかないと言っていい。

ITの開発依頼では、「どんな機能を作るか」「どれぐらいの性能か」といった要件を細部まで準備する。何を作るかが明確でなければ開発会社は見積もれないし、発注した企業も納品されたシステムが適切に作られているか検収できないからだ。