【no.334】AIを使えば、「農業こそ休日」が現実になる

AIを使えば、「農業こそ休日」が現実になる

「働き方改革」は決してオフィスにいるホワイトカラーだけのものではない――。

横浜市青葉区で農業を営む金子栄治さん。2018年7月からミニトマトの栽培を始めた。これまで10年間ほどイチゴを作っていたが、2011年の東日本大震災を機に、さまざまな経験を積もうといったん休止。農業指導でタイへ出かけたりもした。

ミニトマトで農業を再開するにあたり、金子さんがビニールハウスに導入したのが「ゼロアグリ」だ。ゼロアグリとは、土の中に張り巡らした点滴チューブから、水や肥料を自動的に供給する土壌環境制御システム。ハウス内に設置した各種センサーの情報を基に、AI(人工知能)が最適量を判断し、供給してくれる。現状確認や設定変更はパソコンやタブレット、スマホからでも可能だ。

毎日1時間の水やりが1週間で30分に激減

「農業では水やりが重要だが、とても手間のかかる作業。イチゴのときは、水やりの後でテンシオメーターを使って、土中の水分量を確認していた。それをゼロアグリでは自動でやってくれるので助かっている」(金子さん)

ゼロアグリの導入で、水やりの作業が格段に楽になった(金子さんのビニールハウス。撮影:今祥雄)

金子さんの場合、障がい者雇用にも積極的に取り組んでいる。水やりで中断されることがないため、障がい者への指導にも集中できる。ミニトマトは初めて手がけた作物だが、収穫・出荷も順調とのことだ。

ゼロアグリはネットワーク関連機器から農業IT分野に進出したベンチャー、ルートレック・ネットワークスが開発したもの。そのキャッチコピーは「農業に休日を!」だ。

あるトマト農家に導入した結果によれば、ゼロアグリによって、今まで1日1時間かけていた水やりや施肥の作業が1週間に30分間で済むようになった。人手がかからなくなったことから、栽培面積を3倍に増やすことができたという。単位面積当たりの収穫量についても、従来の慣行的な農業に比べて27%アップした実績がある。

農業のIT化、自動化というと、植物工場やハイスペックな鉄骨ハウスが思い浮かぶ。が、「ゼロアグリのターゲットは日本の施設園芸の大半を占める一般的なパイプハウス」(佐々木伸一社長)。そこではデジタル化がまだ進んでいないため、市場開拓の余地が大きいとの判断からだ。

自然相手の仕事なので、片時も目が離せず、一年中休みがない――。そうした従来の農業のイメージを覆そうとするゼロアグリ。まさに農業の「働き方改革」への挑戦だろう。

【no.333】コレ1枚で分かる「人工知能(AI)とロボット」 (1/2)

コレ1枚で分かる「人工知能(AI)とロボット」 (1/2)

AIやロボットとは?

「人間の知的能力を機械で置き換えよう」という技術が本格的な普及期を迎えつつあります。「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」と呼ばれるこの技術は、もはやSF世界の夢物語ではなく、私たちの日常にさまざまな恩恵をもたらしつつあります。

Photo

「人工知能(AI)」という言葉には、さまざまな解釈があるものの、おおむね「人間が行う知的な作業をソフトウェアで実現する技術」を意味しています。その範囲は広く、音声をテキストに置き換える「音声認識」、画像に何が描かれているかを解釈する「画像認識」、大量のデータの中から規則性や関係性を発見する「機械学習」などがあり、それらを応用した技術も含まれます。昨今では、AIを搭載した「ロボット」も登場しています。

ロボットは、これまでさまざまな用途で活用されてきました。例えば、次のようなケースが挙げられます。

  • 工場でものづくりに使われてきた産業用ロボット
  • 倉庫で貨物を移送するための搬送ロボット
  • 宇宙ステーションの船外活動を助けるロボットアーム

これらのロボットは、人間が作ったプログラム通りに動くものや、人間が遠隔操作するものなど、知的処理の部分は人間が担っていました。ロボットにAIを搭載すると、自ら周囲の状況を捉え、どのように行動すべきかを判定して動作する機械へと進化します。この2つのロボットは区別され、前者は「自動化(Automation)」、後者は「自律化(Autonomy)」と呼ばれます。

ロボットには、「bot」と呼ばれる機械の身体を持たないソフトウェアだけのものもあります。botは人に代わって作業を行うコンピュータプログラムのことを指し、登場した当初は、次のような単純作業を行うのが一般的でした。

  • Webサイトを巡回して情報を収集する
  • 用意されたメッセージを指定した時間にソーシャルメディアに発信する
  • オンラインゲームで一定の動作を自動で繰り返し行う

最近ではAIの技術を組み合わせたbotが登場しています。

  • 音声を理解して自然な対話で応対する
  • 曖昧な指示からその人のやりたいことを推察する
  • 機器やソフトウェアの操作、検索や要約などの知的作業を代替する

【no.332】 AIが就職面接で表情を読み取るロボット採用がやってくる

AIが就職面接で表情を読み取るロボット採用がやってくる

リモートワークがこれまで以上に一般的になって来ているので、リモート面接もそれに応じて必要になって来ている。しかし、そのような手段を通したときに、どのように相手を真に評価することができるのだろうか?また、単純に全ての候補者に面接を行う時間がないために、素晴らしい候補者を見逃してしまうことはよくあることだ。

これまでも、この問題に挑み解決しようとする多くのスタートアップが登場してきた。9300万ドルを調達したHireVueは、AI駆動式の「雇用インテリジェンス」プラットフォームで、問題に対処しようとしている。1900万ドルを調達したAllyOは、採用につながっていなかったこれまでの貧弱な候補者とのやり取りアプローチすることで、採用をより効率的なものにしようとしている。そしてAryaは、成功した採用パターンを識別するために機械学習を使用し、オンラインプロファイルから可能性のある候補者を選び出すことを狙う、シードステージのスタートアップだ。

そしてさらに他のプレイヤーは、採用プロセスにアルゴリズムを適用している。

顔認識と音声認識を使用して、求職者を自動的にスクリーニングするVCV.AIは、このたび170万ドルを調達したばかりだ。そう、それはまるでディストピアSFであるブラック・ミラーの新しいエピソードがやって来たかのように見える。

この投資は、日本のVCであるWill Group、Talent Equity Ventures、500 Starups、そしてIndeedの竹嶋正洋氏を含むエンジェル投資家たちから行われた。今回の資金によって、VCVはさらなる技術開発を行い、その地位を強化する。さらに東京にオフィスをオープンすることも予定されている。

VCVによれば、候補者の事前スクリーニング、自動スクリーニングコール、音声認識とビデオ録画によるロボットビデオインタビューを実施することで、採用プロセスから人間によるバイアスを取り除くことができるようになると言う。

VCVを通じて、潜在的な候補者たちは、コンピューターまたはスマートフォン(iOSまたはAndroid)を使用してビデオを録画することができる。受験者は事前に質問に備えることができないため、これは実際の面接のように機能する。さらに、顔認識および音声認識を使って、候補者の緊張度、雰囲気、そして振舞いのパターンを特定することで、採用者側はその人物が企業の文化になじめるかどうかを判断することができる。

VCVは、これは採用担当者の仕事に取って代わるものではなく、手持ちのツールを強化して、担当者がより効率的に多数の候補者を見つけて選別できるようにするものだと言う。スタートアップによれば、この休むことなく潜在的な候補者を探し、チャットし、インタビューする採用ロボットを使うことで、これまで平均21時間かかっていたスクリーニング作業が45分で済むようになるという。

既にPWC、L’Oreal、Danone、Mars、Schlumberger、そしてCitibankが、同社のシステムを顧客として利用している。

VCV.AIの創業者でCEOのアリク・アクバーディアン(Arik Akverdian)氏は「AIを使うことで採用プロセスを改善し合理化することができます。同時に全ての人間が持っている避けることのできないバイアスを取り除くことも支援できます。特に人間の才能が、組織の最も重要な資産であることを考えると、技術革新がこの分野のビジネスを変革してはならない理由はありません」と語る。

採用のすべてがAIを通して行われるようになったとき、私たちはそのバイアスがどのように影響していたのかを知ることになるだろう…。

【no.331】中国は2020年に米国と並ぶAI大国になる? トップクラスの研究で高まる存在感

中国は2020年に米国と並ぶAI大国になる? トップクラスの研究で高まる存在感

人工知能AI)の技術水準を2020年までに世界レヴェルにする──。中国政府が2017年に掲げた目標に向けて着実に歩を進めていることが、アレン人工知能研究所の調査から明らかになった。中国のAI論文数は勢いを増しており、上位10パーセントに占める中国の比率が20年に米国に並ぶことが予想されるという。こうした状況から見えてくるのは、AI研究にかける中国政府の強い意気込みだ

PHOTO: RATNAKORN PIYASIRISOROST/GETTY IMAGES

世界最高峰のコンピューターヴィジョン学会が2018年6月に開かれ、ある研究コンテストが実施された。コンテストで出された課題は、ふたつのカメラが異なる条件下において(例えば晴れた日と悪天候の日に)撮影した画像を解析するものだった。

このコンテストは、グーグルとアップルがスポンサーを務めていた。両社は、こうした作業を得意とする人工知能AI)ソフトウェアを利用して、自律走行車や拡張現実(AR)などの利益につながるプロジェクトを発展させようと考えていたのだ。

ところがコンテストに優勝したのは、まったく異なる目的と任務をもつ研究機関だった。中国人民解放軍の高等軍事教育機関である国防科技大学だったのだ。

トップクラスの研究でも米国に迫る中国

この一件は、AIに賭ける中国の野望と、この分野における中国の台頭を端的に示している。中国政府は17年に「次世代AI発展計画」を発表し、極めて重要な技術分野において20年までに米国と肩を並べると宣言した。米国と中国のAI研究動向に関する最新データを見る限り、中国はこの目標に迫っている。

ここ数年、中国の研究者によるAI論文数は米国の研究者のそれを上回っているが、研究の質と影響力を疑問視する声もあった。ところが、アレン人工知能研究所の新たな調査によると、AI分野のトップクラスの研究成果に絞っても、中国のシェアが急速に米国に近づいていることがわかった。

現在のペースでいけば、AIに関する主要学術文献に占める中国と米国の割合は、20年までに等しくなるだろう。

アレン人工知能研究所は文献検索エンジン「Semantic Scholar」を利用して、18年末までに刊行されたAIに関する研究論文200万本以上を集めて分析した。米国と中国のAI研究成果を比較したところ、新興AI研究大国としての中国の台頭が、17年に国家戦略が発表されるはるか以前から始まっていたことが明らかになった。Semantic Scholarのデータによると、05年以降、中国のAI論文数は一貫して米国を上回ってきた。

AI

宣言の通りに20年に米国に並ぶ?

この傾向は以前から知られており、オバマ政権下でまとめられたAI研究における米国の競争力に関する報告書でも指摘されている。一方、中国の研究機関は粗悪な論文や捏造論文が多いことでも知られているため、こうしたデータに懐疑的な見方もあった。

しかし、ほかの研究論文への引用数が多い論文に限って分析しても、米国のリードは圧倒的とは言えなかった。18年末までのデータを基に分析すると、上位10パーセントのAI研究論文に占める中国の割合は、20年に米国に並ぶことが予想される。これはまさに、中国政府がAI技術で米国に並ぶと宣言した年だ。

AI2

【no.330】AIで顔や広告を自動生成――サイバーエージェントは学習データをどのように集めたか? (1/2)

AIで顔や広告を自動生成――サイバーエージェントは学習データをどのように集めたか? (1/2)

広告事業を展開するサイバーエージェントは、「細分化が進むターゲティング対象に合わせて大量の広告を作成しなければならない」という課題に対し、バナー画像などの広告をAIで大量生成したり、広告に必要な人物画像を自動生成したりして乗り越えようとしている。

“おいしいデータ”で、成果が出るAIモデルを育てる」第3回は、2019年3月に開催された「SIX 2019」において、サイバーエージェントでインターネット広告事業本部の毛利真崇氏が講演した内容を、要約してお伝えする。

AIモデル開発に利用したいデータが社内に散在

現在、さまざまなサービスで、ユーザーのプロフィールやニーズに合わせた広告を配信する「ターゲティング」が用いられている。検索履歴や位置情報、購買履歴などの個人データを用いたターゲティングの細分化も進んでいる。

サイバーエージェント インターネット広告事業本部 セントラルアカウントデザイン室 & クリエイティブAICG研究所 責任者 毛利真崇氏サイバーエージェント インターネット広告事業本部 セントラルアカウントデザイン室 & クリエイティブAICG研究所 責任者 毛利真崇氏

「従来の広告は、全ユーザーに対して同じ広告を配信していた。しかし、ターゲティング手法の登場と細分化で、ターゲットに合わせて配信する広告を変えるのが当たり前になった。その結果、多くの広告を作成する必要が出てきた」

サイバーエージェントでは、広告作成に必要な画像収集システムを内製して3カ月間に約10万本の広告を作成している。それでも、広告の制作時間の不足に悩まされているという。

そこでサイバーエージェントのクリエイティブAI研究所では、今まで制作してきた広告を学習データにして、広告を自動生成するAIモデルの開発に取り組んでいる。しかし、開発には2つの課題があった。

1つ目は、広告を自動で生成するAIモデルを開発しようとしても、開発に必要なデータが社内に散在していたことだ。社内で働くクリエイターが「広告の素材」「広告の制作、編集データ」を持っていたり、コンサルタントや営業が「広告効果レポート」を持っていたり、1カ所にデータを集められていなかった。

2つ目は、広告の制作データが複雑なことだ。社内では広告を「Adobe Photoshop」を用いて制作し、PSD形式で保存している。PSD形式では文字や画像などのデータをレイヤーごとに管理する。そのため、PSDデータの中に、広告で使っていない編集途中のデータが含まれている場合がある。そのようなPSDデータを学習に利用すると、AIモデルが、編集途中の広告を生成する可能性があった。

そこで、AI開発のために必要なデータを集約して、学習できるデータに変換するためだけの専門部署「データクレンジンググループ」を発足。広告の素材と効果をひも付けるためのデータ基盤の開発や、不必要な制作データを削除したPSDデータと広告画像をひも付けてデータベースに格納する作業を行い、研究者やAIエンジニアがそれらのデータを活用して開発できる環境を整備したという。

「データクレンジンググループによるデータ集約作業の結果、広告素材と広告効果のデータがつながった。どのような広告素材を使ってどれくらいの広告効果があったのかということが分かるようになったので、今後、価値のある広告を自動生成できるAIモデルの開発が行えるだろう」

【no.329】ファーウェイ、子どもの視力障がいをスマホのAIで早期発見へ–生後6カ月から診断

ファーウェイ、子どもの視力障がいをスマホのAIで早期発見へ–生後6カ月から診断

Huawei Technologies(ファーウェイ)は、子どもの視力障がいを早い段階で見つけるため、ノートPCとスマートフォンを組み合わせた「Track AI」システムの開発に取り組んでいる。専門家でないと判断が困難な視力障がいの早期発見を支援する。

専門家でないと判断が困難な視力障がいの早期発見(出典:ファーウェイ)
専門家でないと判断が困難な視力障がいの早期発見(出典:ファーウェイ)

子どもの視力障がいは、悪化すると全般的な発達、教育や社会参加の機会に深刻な影響を及ぼしてしまう。ただし、障がいの初期兆候を検知して早い段階から対処すれば、予防や治癒が可能な割合は高いそうだ。そこでファーウェイは、視力障がいの早期発見に人工知能(AI)システムを活用する。

視力障がいを持つ子どもは何かを見る際、特徴的な凝視パターンが現れるという。そこでまず、さまざまな視覚機能を試験できるよう設計した視覚刺激を被験者に見せ、両目の視線を2in1型ノートPC「HUAWEI MateBook E」上の「DIVE(Devices for an Integral Visual Examination)」ソフトウエアで追跡する。こうして得た凝視パターンのデータをスマートフォン「HUAWEI P30」を処理し、視力障がいの疑いがあるかどうか判定させる。

凝視パターンデータは、医療従事者でも専門家でないと意味の解釈が困難だという。ファーウェイは、AI技術を活用し、学習させて健常でない凝視パターンの発見を試みている。最終的には、生後6カ月ほどの子どもからの検査に、研修なしで使える診断補助システムとして提供したい考え。

スマホ上のAIで診断を支援(出典:ファーウェイ)
スマホ上のAIで診断を支援(出典:ファーウェイ)

システムは携行可能で、オフライン環境でも使用でき、データをリアルタイム受信するため、世界各地で迅速な診断に役立てられるとしている。

現在は、学習用データを中国、メキシコ、アラブ首長国連邦(UAE)、スペイン、英国で収集中。十分なデータを集めてから学習を実施し、2019年中にプロトタイプの試験運用を始め、2020年に本格展開する計画。

【no.328】「仕事の49%がなくなる」衝撃レポから3年、AIは本当に仕事を奪ったか

「仕事の49%がなくなる」衝撃レポから3年、AIは本当に仕事を奪ったか

10~20年後に日本の労働人口の49%の仕事がAIやロボット等で置き換えられるというレポートが2015年12月、野村総研とオックスフォード大学の共同研究によって発表され、大きな衝撃を与えたことをご記憶の方も多いだろう。今回からは特別編として、その研究リーダーである野村総研の未来創発センター長の桑津浩太郎氏と、本連載『組織の病気』著者である秋山進氏が2回に分けてAIと人間の今、そして未来を語り合う。前編は、前述のレポート発表後、実際に労働の現場でAI化はどう進んだのか、AIやテクノロジーの現状はどのように進展し、われわれはどのような状況に直面しているのかを解説してもらった。

AIはいま、どの程度
人間の仕事を代替しているのか

秋山 日本の労働人口の49%がAIやロボットで代替されるという衝撃的なレポートが発表されてから約3年。あれから、実際に私たちの仕事はAIやロボットに置き換えられているのでしょうか。

桑津浩太郎

桑津浩太郎(くわづ・こうたろう)
野村総合研究所マネジメントコンサルティングコンサルティング事業副本部長 未来創発センター長 研究理事
京都大学工学部数理工学科卒業。1986年にNRI入社。野村総合研究所 情報システムコンサルティング部、関西支社、ICT・メディア産業コンサルティング部長を経て、2017年研究理事に就任。ICT、特に通信分野の事業、技術、マーケティング戦略と関連するM&A・パートナリング等を専門とし、ICT分野に関連する書籍、論文を多数執筆、近著に『2030年のIoT』(東洋経済新報社)

桑津 AIによる置き換えは、3年たってもあまり進んでいるとはいえません。置き換えるには、大きなジョブを小さなジョブに分ける。どのような種類の小さなジョブによって成り立っているのか分解する。そしてその小さいジョブは、判断することなのか、丁寧にすることなのか、チェックすることなのかを特定していく――。そういう根源的なアプローチが必要になり、非常に時間がかかるためです。

ただ、「AIが仕事を奪う」ことに対する危機意識と反感だけは爆発的に広がったといえます。世の中の実務は変わらないのに、意識は変わった。このままでは危ない。負けてたまるか、というわけです(笑)。

秋山 レポートのなかで置き換わると予測された仕事には、ブルーカラーだけではなく、ホワイトカラーの仕事もたくさん含まれていましたね。

桑津 例のレポートは、中間管理職がターゲットだったため、ホワイトカラー比率が高くなっています。ホワイトカラーの業務もプログラム化できますし、こういう条件ならこう判断するということの積み重ねで成り立っていて、結局、機械に任せられることが多いのです。

しかもAIの機械学習で、そのようにロジックを設定して学習させるのはすでに2世代も前の技術です。いまや、いちいち人間がロジックを決めるロジックベースではなく、ディープラーニングを用いた学習ベースになっています。原因と結果を学習させて、なぜそうなるかはわからないが結論にたどりつく仕組みだけつくれば、中身は極端にいえばどうでもいいわけです。

【no.327】「救急車を呼ぶべき?」にチャットbotが回答 「埼玉県AI救急相談」、10連休に備えて試験導入

「救急車を呼ぶべき?」にチャットbotが回答 「埼玉県AI救急相談」、10連休に備えて試験導入

埼玉県は4月18日、AI(人工知能)を活用したチャットbotによる救急相談の自動応答サービス「埼玉県AI救急相談」を19日午後3時から県の公式サイトに試験導入すると発表した。チャットbotによる救急相談は日本初。7月の本格稼働に先駆け、10連休で相談件数の増加が予想されるゴールデンウィークに試験運用する。

埼玉県の公式サイトにリンクを設ける予定

チャットbotの開発はNECが担当。利用者がフリー入力で書き込んだ内容をもとに可能性のある症状を回答。利用者に選択させ、症状により「今すぐ救急車を呼びましょう」「現時点では医療機関に行く必要はないでしょう」といった緊急度を判定する。スマートフォンの場合、チャット画面から救急電話相談や119への発信が可能。電話相談ではチャットの内容を相談員が引き継ぐ。

緊急度を5段階で判定

試験運用は5月31日の午後3時まで。試験結果を踏まえ、改良を加えた上で7月19日に本格運用を開始する予定だ。埼玉県では「いつでも気軽に相談できることで、利用者の不安解消や医療機関の適正受診につながる」としている。

【no.326】ブラジルで急伸のフードデリバリーiFood、AIラボの設立を宣言

ブラジルで急伸のフードデリバリーiFood、AIラボの設立を宣言

ブラジルのフードデリバリー分野のユニコーン企業「iFood」は、昨年11月に5億ドル(約560億円)の資金を調達したが、同社はAI(人工知能)領域に巨大な投資を行うことが明らかになった。

サンパウロ本拠のiFoodは4月上旬、2000万ドルの資金を同社の「AIアカデミー」に割り当て、配送の効率化にむけてマシンラーニングやディープラーニング、行動科学の研究を進めると宣言した。

同社は、ブラジルのフィンテック界のユニコーン「Nubank」のデータサイエンス部門長のSandor Caetanoを引き抜き、AI部門の主任に据える。iFoodのAIラボは年内に100人を新たに雇用し、サンパウロ郊外のイノベーションセンターOnovolabなどで、リサーチを進めていく計画だ。

iFoodはブラジルのフードデリバリー市場でシェア86%を誇り、現地で2位の「ウーバー・イーツ」の17倍の規模という。同社は先日、月間注文件数が174万件に達したと発表し、前年同期比で130%の成長を遂げた。

iFoodは既にAIテクノロジーの利用を進めており、今後は地元の大学などとも連携し、マシンラーニングやディープラーニングの研究を行う計画だ。同社はレストラン向けの分析ツールも提供し、地域や日別の人気メニューの提案も行う。さらに、新規出店を計画中のオーナーらの、物件探しも支援する。

昨年11月のiFood の5億ドルの資金調達は、ラテンアメリカのスタートアップ界で、史上最大の調達額として話題となった。同社はそのうち4億ドルを2019年の事業拡大に注ぐことを宣言していた。

【no.325】SK-II、AIやアイトラッキングを駆使したスキンケア・ストアを展開 自分のペースでの商品体験を演出

SK-II、AIやアイトラッキングを駆使したスキンケア・ストアを展開 自分のペースでの商品体験を演出

SK-IIはスキンケア・ショッピング体験革新の試みとして、2019年4月24日(水)から4月30日(火)にかけて、伊勢丹新宿店本館1階にて期間限定イベント「SK-II Future X」を開催する。

「SK-II Future X」では、来店者一人ひとりが、フィジカルとデジタルが交差する「フィジタル(フィジカル+デジタル)」な環境を自由に行き来しながら、ストレスなく自分に合ったやり方で自身の肌と向き合うことができるようになっている。

本イベントでは、AIを活用した肌測定体験「マジック スキャン」も提供。鏡の前に3分間立つことで、肌の状態や肌年齢の測定、さらに測定結果に応じたお勧め製品の紹介までを行う。製品のお試し体験のブースもあり、アイトラッキング技術を搭載した「マジックミラー」が、来店者の視線を感知し、製品情報や使い方を表示する。

また、「SK-II フェイシャル トリートメント エッセンス」の限定商品を購入すると、自動販売機「ピテラ パワー ベンディングマシン」で、ボトルが限定デザインに変わっていく瞬間を体験できる。その他にも、180度動画が撮影できるセルフィーブースや、天然由来成分「ピテラ」について訴求するARウォールも設けられている。

SK-IIは、信頼でき、意味のある体験を提供してくれるブランドだけを求めるという今の生活者とのつながりを持つため、「Future X」と銘打ち、スキンケア・ショッピング体験の革新に取り組んできた。アジア各国でポップアップストアを開催したり、CES 2019への出展を行うなど、テクノロジーを取り入れた未来型の購買体験を模索している。

SK-II グローバル バイスプレジデントのサンディープ・セス氏は「我々はお客様に、スキンケア・ショッピングの主導権をお戻ししたいと考えています。お客様は、自分の肌や製品について誰の目も気にせず、誰かに決めつけられたり押し付けられたりすることなく、自分のペースで知ることができるのです」とコメントしている。