【no.404】AIアプリが生保営業の“殺し文句”を伝授

AIアプリが生保営業の“殺し文句”を伝授

日本生命保険は、営業職員の能力底上げを目指し、「セールストーク」を人工知能(AI)が評価するスマートフォンアプリを導入する。希望する営業職員にスマートフォンを有償貸与する。研修にかかるコスト削減も狙いで、先輩職員から脈々と受け継がれてきた営業の“殺し文句”も、今後はAIが伝授することになる可能性がある。

導入されるスマホアプリは、営業職員がスマホに向かって保険商品などの提案を行うと、職員の表情や話す速度、明瞭さなどをスマホ搭載のカメラで認識。AIが営業成績の優秀な職員と照らして評価する。評価は研修担当の職員にも送信され、営業職員へ助言を行うことも可能という。

保険業界では営業能力の向上に向け、社員が営業役と顧客役に分かれて「ロールプレー」を行うといった研修方法が一般的だが、全国の支社や営業所などに約5万人の営業職員を抱える日本生命では、同様の研修を行うには多大な労力と時間がかかる。アプリならば職員1人でも空き時間を使えばできるため、こうしたコストも省ける。

スマホ貸与は年末までに行われる予定で、スマホには営業に使える税制や商品について学べるアプリのほか、顧客が職員と気軽にやりとりができるよう無料通話アプリ「LINE(ライン)」も搭載される。

 

【no.403】AIシステム開発 二者択一の手法

AIシステム開発 二者択一の手法

AI(人工知能)の活用が一般企業にも広まってきた。普及を後押しするのが、クラウドが提供する「学習済みAI」の充実。これまでAIは一から「自社開発」するのが一般的だったが、新たな選択肢として注目を集める。これまで通り自社開発するのか、学習済みAIを活用するのか。AIシステムの開発に当たり、二者択一で手法を選ぶ必要がある。

企業システムで増える採用 学習済みAIで導入が容易に

[PART 1]AIは「作る」か「使う」か

業務効率化などAIサービスの用途が一般の企業システムに広がってきた。後押しするのがモデル開発が不要で、すぐに使える「学習済みAI」の充実だ。従来型の自社開発AIと学習済みAIのどちらを選ぶか、開発時の選択が重要になる。(2019/08/14)

モデルの開発は不要 AI素人でも導入可能

[PART 2]学習済みAIから選択

AI導入で最も手間がかかるモデル開発を不要にするのが学習済みAIだ。学習済みAIにAPI経由で接続すれば、すぐに利用可能だ。複数のサービスを実際に利用して精度を比較するなど簡単な作業で導入できる。(2019/08/14)

実装に向け試行錯誤が必須 テンプレートで負担軽減へ

[PART 3]自社開発AIはモデルに注意

現状、導入の主流となっているのが自社に合ったモデルを開発する自社開発AIだ。自社開発AIはモデルの開発で終了ではなく、その後も様々な作業が必要になる。今後はテンプレートの活用によりモデル開発の工数は削減される見込みだ。(2019/08/14)

運用で精度を見直し 倫理と向き合い導入する

[PART 4]AI活用のカギを握る「育て方」

AIを使ったシステムは精度の高いモデルを開発すれば完成ではない。稼働後の精度の低下、外部環境の変化に対応しながらAIを「育てる」必要がある。AIが意図せぬ判断をしないように開発中から注意を払おう。(2019/08/14)

【no.402】上海市、新たなAIイノベーション試験エリアを発表

上海市、新たなAIイノベーション試験エリアを発表

上海市は7月29日、「上海馬橋人工知能イノベーション試験エリア建設工作を推進する方案」(以下「方案」)を発表した。方案では、人工知能(AI)のイノベーション試験エリアを上海市閔行区馬橋鎮とその周辺の15.7平方キロを対象地域に指定し、2030年までに1,000億元(約1兆5,000億円、1元=約15円)の産業規模を構築するとしている(馬橋人工知能イノベーション試験エリア発展計画は表1参照)。

表1 馬橋人工知能イノベーション試験エリア発展計画

方案によると、上海馬橋人工知能イノベーション試験エリアは「産業イノベーション発展エリア」と「応用総合実践エリア」の2つに分けられる。

「産業イノベーション発展エリア」の面積は10.8平方キロで、スマート運送システム、スマートロボット、スマート感知システム、スマート新ハードウエアシステムなど4つの「スマート産業」を重点的に発展させることによって、製造業のグレードアップの実現、AI領域のユニコーン企業の育成を実現する。また、上海市内の紫竹イノベーションベルトと呉経エリアと連動し、次世代のAI産業試験エリアを形成する。

「応用総合実践エリア」の面積は4.9平方キロで、都市管理、民生サービスなどのニーズに基づき、AIの応用体験場所を構築し、AI技術研究開発、人材集積、学術交流などを行っていく。

前瞻産業研究院のレポートによると、AI領域における過去20年間の論文の総数は中国が全世界でトップ、AI関連企業数も米国に次ぐ2位となっている(表2、3参照)。

表2 人工知能に関する論文数(1997~2017年)
表3 各国の人工知能企業数

その中でも上海に関しては、5月に浦東地区に「人工知能イノベーション応用先導地区」(2019年6月3日記事参照)を建設すると発表し、8月末には「2019年世界人工知能大会(2019年6月26日記事参照)」を開催するなど、AI分野の動きが盛んだ。

【no.401】AIは絵師を救えるのか? イラストの買いたたきを防ぐシステムが爆誕 (1/3)

AIは絵師を救えるのか? イラストの買いたたきを防ぐシステムが爆誕 (1/3)

人工知能(AI)が、今まで人間がしていた業務の代わりや判断の手助けなど、ビジネスで使用される機会が増えつつある。しかしAIを使ったシステムは、開発が難しかったり、学習させるデータがそろっていなかったりとハードルが高いと感じる人も少なくないだろう。

今回は、AIシステムをほぼ一人で作成し、「イラスト」の価格算出に取り組んだ企業に話を聞いた。

イラストの評価、見積もりをAIで自動化する「アートディレクターAI」

近年におけるAI技術の進化は目覚ましく、ビジネスのさまざまな領域への応用が進んでいるが、このほどコンテンツ制作会社のジーアングルが開発した「アートディレクターAI」は、中でも特徴的なものだといえる

アートディレクターAIはその名の通り、人間のアートディレクターがする業務の一部をAIによって自動化しようというもの。ジーアングルはイラスト、楽曲、映像といったコンテンツ制作、各種Webシステムやアプリケーションの開発など幅広い業務を扱っている。中でも近年需要が多いのがソーシャルゲーム向けのイラスト制作案件だという。

ジーアングル 森 宏晃氏(執行役員 事業開発本部長)

同社は社内にイラストレーターを抱える他、フリーランスで活動する社外のイラストレーターとも広く提携し、年間1200件ほどのイラスト制作を請け負っている。しかし、お客さま側との間で制作価格や工数見積もりの認識が合わず、そのことがトラブルの原因になることも少なくないという。こうした課題について、ジーアングル 森 宏晃氏(執行役員 事業開発本部長)は次のように説明する。

「イラストの評価は経験や感覚に頼りがちで、制作費用の見積もり根拠をお客さまに論理立てて説明するのは簡単ではありません。お客さま側としても、一見同じように見えるイラストの価格に大きな隔たりがあると、『なぜこんなに価格が違うのか?』と疑問を持たざるを得ません。そこで、客観的にイラストの商業的価値を評価し、自動的に価格を算出するような仕組みがあれば便利だと考えていました」

一方、森氏はちょうど同じ頃、個人的な興味からAIの勉強を始めていたという。

「ネットの情報などを調べてみると、ここ数年の間で画像分野でAI技術のブレークスルーがあり、専門家でなくとも手軽に扱えるようになってきたことを知りました。もともと当社は画像関係のコンテンツを広く扱っていますから、これはぜひおさえておいた方がいいと考え、個人的に勉強を始めていました」

ネットで最新の技術情報を調べるとともに、社外の勉強会やセミナーなどにも積極的に参加して、機械学習を使った最新の画像認識技術の学習に取り組んだ。もともとAIに関する予備知識は皆無だった同氏だが、かつてPythonを使ったソフトウェア開発に従事していたこともあってか、着実にスキルを身に付けていった。

ある程度手応えをつかんだ段階で、「これはひょっとしたら、自社の業務にも役立てられるのではないか?」との考えに至り、社内でAIが適用できそうな業務を幾つかピックアップしていった。判断基準の1つに据えたのが、「人間でないとできないと誰もが思い込んでいる」ということだったという。

「機械学習やディープラーニングが本当に役立つ領域は、これまで『人間にしかできない』と思われてきた分野にこそあるのではないかと考えていました。そうした基準で社内の業務をピックアップしていった結果、『イラストの評価や見積もり』が浮かび上がったのです」

【no.400】等身大のAIキャラクターがご案内 「インフォロイド」正式サービス開始

等身大のAIキャラクターがご案内 「インフォロイド」正式サービス開始

Web開発事業などを手掛けるイージェーワークス(神奈川県横浜市)は8月5日、AI(人工知能)を活用したアニメ風のキャラクターが商業施設などを案内する情報サービス「インフォロイド」の提供を開始した。初期導入費用は300万円から。

「インフォロイド」。オリジナルキャラクターの「出逢蒔奈」(であいまきな)は17歳の高校生。先祖代々神社の家柄で育ち、巫女さんもやっているという設定だ。ラテン語の「DEA EX MACHINA」(時計仕掛けの女神)から命名した

インフォロイドは、大型の透過型液晶ディスプレイに映し出された立体的なキャラクターが、来客と会話しながら施設案内やレコメンドを行う一種のデジタルサイネージだ。音声合成エンジンに名古屋工業大学発のベンチャー企業、テクノスピーチの技術を採用し、カメラで人を認識すると「こんにちは!」などと声を掛ける。トイレや売店の場所は地図を表示しながら説明し、「踊って」といわれればダンスも披露する。「単なる情報端末ではなく、アトラクションにもなるプラットフォームを目指した」(イージェーワークス)

お客を見つけて声を掛ける

アンケートや広告にも活用できる。インフォロイドは、「今日は何を楽しみに来たのかな?」などと質問して来場目的などを聞き、そのデータを蓄積。施設のマーケティングなどに活用できるという。また今後は、交通広告やデジタルサイネージ開発を手掛ける広告代理店のエヌケービーと協力。広告用動画素材をあらかじめ設定した形式に自動変換して入稿できる「NKBクラウド」と連携し、広告の配信やイベントへの誘導などが容易に行えるようにする。

2018年5月に横浜アリーナで実施した実証実験では、横浜デジタルアーツの学生がデザインしたオリジナルキャラクター「蟻十(ありとう)あんず」が施設情報や終電の時間などを案内した。アニメ風のデザインにしたのは、いわゆる「不気味の谷」問題を回避するためで、新キャラクターの「出逢蒔奈」(であいまきな)も同様にアニメ風にした。

【no.399】「わざと負けようとしても無理」と話題 プロも挑戦する“世界最弱のオセロAI”、生みの親に聞く開発の裏話 (1/2)

「わざと負けようとしても無理」と話題 プロも挑戦する“世界最弱のオセロAI”、生みの親に聞く開発の裏話 (1/2)

「負けられるなら負けてみてくれ!」――。AIの開発やAI人材の育成を手掛けるベンチャー「AVILEN」(東京都千代田区)は7月25日に、強化学習を使ってAIを極限まで弱くしたブラウザゲーム「最弱オセロ」をリリースした。AIが対局中に「あえて角を取らない」「石を少なく取る」といった行動を取り続けるため、人間は負けることが難しいのが特徴だ。このゲームを開発した、AVILENの吉田拓真CTO(最高技術責任者)は、Twitter上で「世界最弱」とその弱さをアピールする。

ALTALTどう頑張っても、角を取るよう誘導される

人気YouTuberのはじめしゃちょーさんが動画で紹介したこともあり、リリースから2週間で約100万回プレイされたが、AIの勝ちはわずか約3000回。オセロのプロではない一般人はどんな工夫をしても負けられず、ネット上では「あまりにも弱い」「わざと負けようとしても無理」と話題になっている。筆者も挑戦してみたが、何度やっても角を取るよう誘導され、圧勝させられてしまった。

吉田CTOは、このゲームを開発した背景について「大学生だった2年半前に、趣味と勉強を兼ねて約半年間で作りました。使用言語は『C++』のみです。その後はしばらく放置していましたが、ふと『Web上で公開して遊んでもらおう』と考え、少し調整してリリースしました。ユーザー数は100人くらいを想定していたので、反響には驚いています」と話す。

AlphaGoのオセロ版を目指していた

AVILENは20代の若手を中心としたベンチャーで、吉田CTOも東京大学大学院を休学して参加している。化学を専攻していたものの、プログラミングにはまったという吉田CTOは2017年ごろ、世界最強クラスの棋士を続々と打ち破っていた囲碁AI「AlphaGo」に興味を持ち、好きなオセロで再現したいと考えた。

「AlphaGoは、人間の脳を模した『ニューラルネットワーク』というアルゴリズムや、自分自身と対局を繰り返すことで強くなる強化学習の手法を採り入れています。これらの技術に興味を持ち、AlphaGoのオセロ版を作ろうと決め、勉強を始めました。最初は人間よりも強いAIを目指していました」(吉田CTO、以下同)

自分ならもっと弱くできる

そんな吉田CTOが「弱いAIをつくりたい」と思い立ったきっかけは、YouTubeやニコニコ動画でとある動画を目にしたことだった。その動画は、投稿者が「わざと負けようとするオセロ用AI」を構築し、人間と戦わせてみるという内容だった。

吉田CTOはそのコンセプトに引かれたものの、動画ではAIが勝つケースがやや多かったため、「自分ならもっと弱くできる」と開発を決意。ニューラルネットワークや強化学習を使って、自分の手でとことん弱いAIを作ることにした。

「コードの内容を言葉で説明すると、私が参考にした動画の投稿者は、オセロを『石を多く取った方が勝ち』と定義した上で、最も悪い手を打つようにAIを設計していました。一方私は発想を変え、『石を少なく取った方が勝ち』というルールの中で、最も良い手を打つAIを作りました」

設計の工夫もあり、吉田CTOが開発したAIは、自分自身との対局を繰り返す中でどんどん弱くなっていった。「最弱オセロ」は現在、角の1~2つ隣のマスに積極的に石を置いたり、「石が密集しているが、1マスだけ空いている」といった状況をつくったり――といった戦法をよく使うが、これらは他のAIにはみられない動きだという。

【no.398】AIベンチャーは「ヤフー知恵袋」じゃない タダ働きからの卒業宣言 (1/5)

AIベンチャーは「ヤフー知恵袋」じゃない タダ働きからの卒業宣言 (1/5)

AIベンチャーに寄せられる問い合わせは多々ありますが、中でもデータ分析ツールへの関心は高いものがあります。

データ分析ツールが大手数社の寡占だったのははるか昔で、いまや国内外のベンチャーを含めてさまざまな製品を選べます。ツールベンダーは、依頼に応じてユーザー企業を訪問しては製品説明を行い、機能要望や質問がまとめられたExcelシートを埋めて、個別に作ったデモを披露します。

こうして分析ツールベンダー各社はお客さまのために支援して、自社製品の採用につなげていきます。

データ分析ツールのおける一般的な検討の流れ(筆者作成、いらすとや)

連載:マスクド・アナライズのAIベンチャー場外乱闘!

マスク

自称“AI(人工知能)ベンチャーで働きながら、情報発信するマスクマン”こと、マスクド・アナライズさんが、AIをめぐる現状について、たっぷりの愛情とちょっぴり刺激的な毒を織り交ぜてお伝えします。お問い合わせのメールは info@maskedanl.com まで。Twitter:@maskedanl

(編集:ITmedia村上)

ツールベンダーの「タダ働き問題」

しかし、本当にこれで良いのでしょうか。筆者は大企業をはじめとするユーザー企業に呼ばれる立場として、ふに落ちない点がありました。

そもそもユーザー企業は自分で調べたり、手を動かしたりはしません。電話一本でベンダーの担当者を呼んで説明やデモをさせたり、分からないことは全部調べさせたりしますが、この時点でベンダー側は「提案」という名のタダ働きになっています。

そのようなユーザー企業は業務改善のために何をすべきか自分で判断できないので、取引先は振り回されてしまいます。

【no.396】人材不足の今がチャンス! AI社会における文系ビジネスパーソンの選択肢

人材不足の今がチャンス! AI社会における文系ビジネスパーソンの選択肢

AI人材への需要が高まっている

2019年3月、政府は圧倒的なAI人材不足を受け、有識者提案の「AI戦略 2019」を発表。大学・高専に専門認定コースを設置することなどにより、各専門分野でAIを活用できる人材を年間25万人育成するという目標が設定された。

また、小学校から大学にかけて身につけるべきAI基礎知識が具体目標として明確に設定されるなど、目標実現に向けた道筋も示されつつある。

こうした「AI戦略」の公表によって、日本でもようやく本格化しそうなAI人材の育成。しかし、現役で現在働いているビジネスパーソンは来るべき「AI時代」において、こうした若い人材に置いて行かれるしかないのだろうか? 専門家に話を聞いた。

「AI人材」を構成する3つのレイヤー

そもそも、「AI人材」とはどのような人材を指すのか?

「政府や我々が定義するAI人材は、AIのアルゴリズムを理解し研究開発を行う研究人材と、実際にAIを社会実装する人材、日常社会においてAIを活用する一般社会人といった3つの層からなるピラミッドで構成されています(図)」

そう話すのは、NEC(日本電気株式会社)のシニアデータアナリストであり、AI人材育成センター長も務める孝忠大輔(こうちゅう だいすけ)氏だ。

孝忠氏によると、いま現在の日本においてその不足が大きな問題になっているのは、ピラミッドの真ん中に該当する「AIを社会実装する人材」だという。

図:AI人材のピラミッド

図:AI人材のピラミッド

※NEC(日本電気株式会社)NECアカデミー for AIパンフレットより編集部作成

「AIを社会実装する人材」とは、実際のAIプロジェクトの現場において、プランニングやプロジェクトマネジメント、データ分析、システム導入などを行える人材のことを指す。

「AIの急激な普及に対し、こうした現場作業に対応できる人材が圧倒的に足りていません。それゆえ、各メーカーをはじめネット企業や金融機関といった多くの企業の間で、絶対数が少ない即戦力人材の取り合いになってしまっています。結果、対象人材のオファー金額が高騰している状況です。

また、AIは日々、新しい技術が生まれる分野であるため、大学などで数年間をかけて最先端のAIを学んだ学生の知識や技術が、新しい技術をキャッチアップしていない企業を上回る可能性も高い。そのため、大学などでAIを学んだ学生の青田買いが始まっているという現状もあります」

日本のAI人材育成が遅れた理由

一方、ピラミッド最上部の研究人材については、政府が「AI戦略」のなかで年間100名の育成を目標に掲げている。

「もちろんそうしたトップ人材も5年後、10年後の日本を見据えると大変に重要です。GAFAに日本企業が太刀打ちできない理由のひとつには、そうした研究人材の育成不足がある。しかし、この層は博士課程などに進む限られた人たちであり、1年や2年で育成できるものではありません。日本が追いつくのには時間がかかるでしょう」

孝忠氏によると、欧米などと比較して日本のAI人材育成が遅れてしまったことには、統計を学ぶ文化の有無が影響しているという。

「AI人材育成が遅れた理由のひとつに、日本の大学にそもそもデータサイエンスを学ぶ統計学部がなかったことが挙げられます。たとえば欧米などでは、多くの大学や大学院が統計学部を設け、年間で数千人という卒業生を輩出しています。

対して日本では、統計というと数学科や情報学科の一部でしかないのが実態で、3年前にようやくはじめてのデータサイエンス学部が滋賀大学に創設されたばかり。文系中心の日本は大きな差をつけられてしまったのです」

文系もしっかり学べばAI人材になることができる

こうした背景をうけ、ここ数年は中途採用や新卒採用に加え、AI人材の社内育成を進める企業が増えている。

孝忠氏の所属するNECでも、2013年から社内におけるAI人材育成への取り組みがスタート。現在までに、独自開発されたAI研修プログラムを1,900名以上のNECグループ社員が受講しているという。

また、社内環境の整備も進んでいる。AIについての最新動向に関するディスカッションや情報共有を行う5,000名規模のコミュニティや、AIを自由に使える砂場(サンドボックス)などを社内に設け、部門を問わずすべての社員がAIスキルを磨ける環境を整備しているのだ。

しかし当然ながら、そうした研修制度や環境が整備されている企業はまだまだ少ないというのが実情だ。

「AI人材育成に苦労している企業は少なくありません。そこで、NECでは今年の4月から『NECアカデミー for AI』というスクールを開講しました。これは、我々が6年間に渡って構築した人材育成のノウハウを社会に還元させる取り組みです」

『NECアカデミー for AI』には、実務経験を通してAI人材としての独り立ちを目指す「入学コース」と、AI人材に必要な知識を選んで習得できる「オープンコース」の2コースが用意されている。

「入学コースでは、卒業してすぐに現場で通用するAI人材となっていただくべく、1年間をかけて、AIの基礎から専門知識、さらには我々が道場と呼ぶ実践の場での実務経験などを積んでいただく昼間通学制のプログラムを用意しています」

入学コースの対象となるのは、企業のデジタルフォーメーションを担う部署のコアメンバーや、データサイエンティストを目指す人たち。また、企業の資格取得制度や、大学のインターンシップ制度などとの連携も進められているという。

「AIと聞くと難しく思えるかもしれませんが、文系の人でも集中して学べば、AIを社会実装する人材になることができます。スタートは誰でも同じなので、学ぶ意欲さえあればすぐに即戦力になることが可能ですし、どんどん新しくなるテクノロジーの情報をいち早くキャッチアップできれば、その分野のトップを走ることも可能です。つまり、AIは多くのビジネスパーソンの方にとってチャンスがある分野でもあるのです」

需要が供給を上回っている現在、AI業界は自分の市場価値を高めるチャンスに溢れている。「自分にはどうせ無理だ」と考えていた文系ビジネスパーソンこそ、このタイミングでAI人材を目指してみるべきなのかもしれない。

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【no.395】「シーマン」がAI会話エンジンとして再始動、BOCCOの次世代モデルに「ロボット言語」搭載へ

「シーマン」がAI会話エンジンとして再始動、BOCCOの次世代モデルに「ロボット言語」搭載へ

シーマン人工知能研究所とユカイ工学は7月30日、ロボット向けの会話エンジンの開発で提携すると発表しました。

「シーマン」といえば1999年、ドリームキャストで登場した育成ゲーム。ちょっと上から目線の人面魚を捕まえて育てるという内容で、当時としては画期的な「話しかけた言葉に反応する」という会話エンジンが組み込まれていました。夢に出そうなシュールなルックスの人面魚は、世代でなくても記憶している人も多いのではないでしょうか。

Seaman×BOCCO

そのシーマンをデザインしたゲームクリエイターの斎藤由多加氏は今、日本語のAI会話エンジンを研究しています。シーマン人工知能研究所は、その斎藤氏が立ち上げたベンチャー企業です。

ただし、同社は「シーマン」のようにギョッとするルックスの会話ロボを作るわけではありません。同社が初めてリリースするAI会話エンジンは、親しみやすい見守りロボット「BOCCO」の次世代機に搭載されます。

Seaman×BOCCO▲BOCCO emo

■日本語を理解し「ロボット言語」で返す

ユカイ工学のロボット「BOCCO」は、手に乗るサイズの小さなロボット。スマホとの通話や伝言の機能を備え、離れた場所にいる家族や留守番する子どもを見守るロボットとして開発されました。

同社がこの秋リリース予定の次世代機「BOCCO emo」は、表情や動きが豊かになった、より愛らしいロボットになっています。このBOCCOに、シーマン人工知能研究所が開発した「ロボット言語」が搭載されることになります。

Seaman×BOCCO

ロボット言語は 「人間には理解できない言葉」としてシーマン人工知能研究所とユカイ工学が独自に定義したもの。ロボット(の音声認識エンジンは)は人間の話す言葉を認識しますが、その返答は「ピュ〜ピュ〜」や「ピロピロ」といった”音”で返します。その音は人間には理解できず、発音できませんが、聞いているとなんとなく規則性があることが分かります。

Seaman×BOCCO

20代後半〜30代半ばの人ならニンテンドウ64の『ピカチュウげんきでちゅう』をイメージすると、ピンとくるかもしれません。あるいは、ペットの犬や猫との会話もこれに近い体験があるでしょう。「何を言っているのか分からないけれど、意思疎通している感覚」を体験させるのが、「ロボット言語」の目的と言えます。

【no.394】人工知能の次世代を担う「エッジAI」テクノロジーの威力

人工知能の次世代を担う「エッジAI」テクノロジーの威力

大手テック企業らは近年、「マシンラーニング(機械学習)とAI(人工知能)を民主化する」と盛んに述べている。しかし、機械学習とAIは、コンピュータサイエンスと同じくらい領域が広く、複雑でもある。

こうした課題を解決してくれるのが、シアトルに本拠を置くスタートアップ「Xnor.ai」だ。同社は、クラウドではなくエッジデバイス(現場に近い機器)上で簡単にAIモデルを動かすことを試みている。Xnor.aiは、2016年12月にAli FarhadiとMohammad Rastegariによって設立され、2017年のシードラウンドではMadrona Venturesから250万ドルを、2018年のシリーズAでは、同じくMadrona Venturesなどから総額1200万ドル(約13億円)を調達している。

Ali Farhadiは、2016年に物体検出アルゴリズム「YOLO」に関する共著論文を発表している。YOLO(You Look Only Once)は、画像やフレームの中から複数の物体を検出する手法で、リアルタイム物体検出で最も多く用いられている技術の1つだ。現在、Aliはコンピュータビジョンモデルをエッジデバイス上で実行するためのプラットフォームとしてXnor.aiを普及させようとしている。

ソフトウェアやハードウェアのベンダーは、Xnor.aiを用いることでプロダクトにコンピュータビジョンを簡単に搭載することが可能だ。Xnor.aiは、対象のプラットフォームに実装するSDKを提供しており、SDKをインストールすれば画像分類や物体検出、顔認識、画像分割などの機能をアプリケーションに瞬時に搭載することができる。

この技術により、アップルのFace IDのような機能を簡単に実装することができるのだ。

スマートホーム機器を手掛ける「Wzye」は、Xnor.aiを用いて製品のインテリジェンスを向上した。Xnor.ai のアルゴリズムはデバイス上で実行されるため、Wzyeのスマートカメラはインターネットに接続していなくても人物認識を行うことができ、クラウド費用を抑えられる。

SDKでAI機能を簡単に実現

Xnor.aiは最近、デスクトップやエッジデバイスの上で実行するアプリケーションにAI機能を実装するための新SDK「AI2GO」をリリースした。AI2GOプラットフォームは、Linux、Microsoft Windows、macOS、Raspberry Pi、Ambrellaに対応している。

開発者はSDKをインストール後、数行のコードを書くだけでAI機能を実装することができる。SDKの対応言語は、CとPythonとなっている。Xnor.aiは、AIモデルと推論エンジンを含むシングルモジュール「Bundle」も提供しており、開発者は数行のコードを書けばデバイス上でモデルを実行することができる。個々のBundleはスマートホームやリテール、自動車など特定の業界を対象としており、その業界向けにトレーニングし、最適化されたモデルが含まれる。