【no.279】過酷なアニメ制作の現場、AIで救えるか 「動画マン」の作業を自動化、DeNAの挑戦 (1/2)

過酷なアニメ制作の現場、AIで救えるか 「動画マン」の作業を自動化、DeNAの挑戦 (1/2)

「労働環境が過酷すぎる」「時間も人もお金も足りない」――日本のアニメ制作現場では、アニメーターの低賃金労働や法定労働時間の超過といった問題が指摘されている。こうした状況を、近年進化が著しいAI(人工知能)技術で改善できないか。ディー・エヌ・エー(DeNA)AIシステム部の李天キ(王に奇)さんと濱田晃一さんが、2月6日に開催された技術者向けイベント「DeNA TechCon 2019」で、最新技術を用いた事例を紹介した。

アニメの制作現場でも特に過酷とされるのが「動画マン」と呼ばれる仕事だ。動画マンは、滑らかなアニメーションになるように、原画と原画の間を埋める絵(中割り)を描く人のこと。

私たちが良く目にする「30分間のテレビアニメ」の場合、1話当たり3500~4000枚の中割りを描く必要があるという。1枚を完成させるのに数時間かかることもあるが、給与はほとんどの場合1枚いくらの歩合制。時間をかければかけるほどアニメーターの時給は下がっていく。

アニメアニメの中割りをAIで生成

「構造変化が大きい」 アニメの難しさ

李さんは、与えられた原画のデータを基に、原画と原画の間を埋める中割りの画像を自動生成できないかと考えた。実写動画の中間フレームを自動補完する「Frame Interpolation」という技術は既に存在する。ニューラルネットワークが、2枚の画像間におけるピクセルの移動量を表したベクトルマップ「Optical Flow」を算出し、中間フレームを合成するというものだ。

アニメ「Frame Interpolation」の技術

いまの技術では、フレームレートが30~60fpsの動画を入力すると、中間フレームが補完された240~480fpsのより滑らかな動画を生成できるという。

しかし、この手法をそのまま「アニメの中割り」に適用するのは難しい。実写動画とアニメではフレームレートが違いすぎるからだ。フレームレートが低いアニメは「画像間の構造変化が大きい」。

アニメアニメの中割りにはそのまま適用できない

李さんは「実写動画に比べ、アニメはフレームレートが低い。またイラストは実写に比べて色が単調でピクセルの対応点を特定しにくく、Optical Flowの計算が困難だ」と説明する。

【no.278】AIを駆使してジェンガをプレイするMITのロボット–目指すは「産業への応用」

AIを駆使してジェンガをプレイするMITのロボット–目指すは「産業への応用」

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは米国時間1月30日、ジェンガをプレイできるロボットの開発に関する論文をScience Robotics上で発表した。この昔からあるゲームのルールはかなりシンプルだ。プレーヤーは、直方体のブロックを積み上げて作られたタワーを崩さないようにしながら、ブロックを1本ずつ抜き取り、最上段に積み上げていく。ルールはシンプルながら、ジェンガでは身体的なスキルと精神的な戦略を組み合わせることが必要とされる。このゲームをロボットにマスターさせることができれば、産業界に存在するさまざまな作業上の課題を克服できるようになる。


提供:マサチューセッツ工科大学(MIT)

問題へのアプローチと俊敏性を組み合わたこのスキルセットは、現実世界でロボットによって電気製品などの製造や組み立てを行う際に威力を発揮するはずだ。

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MITのエンジニアらは、ABBのロボットアーム「IRB 120」をカスタマイズし、柔らかい素材で先を覆ったグリッパー(握り部分)と、圧力センサを組み込んだリストカフ(手首部分)、外部カメラを装備した。彼らのロボットは、人間がジェンガをプレイする時と同様に、いずれかのブロックを押してみることで、タワーを崩さずに抜き取れるかどうかを判断する。人間が視覚と触覚を用いるのに対して、ロボットは視覚にカメラを、触覚にリストカフを用いるようになっている。

同論文の主執筆者であるNima Fazeli氏は米ZDNetに対して「このロボットは現実世界におけるセンサ誤差や、不完全な情報に対処する必要がある。ここで重要なのは、ジェンガのタワーに実際に触れずしてその状況(ブロックをどのように動かせるか)を把握するのは不可能だという点だ。このため、人間と同様、視覚と触覚という2つの補完的な感覚を組み合わせる必要がある」と語っている。

ロボットは経験を重ねることで、ジェンガをより上手にプレイできるようになった(言い換えれば、不安定な状態にある物体をよりうまく操作するための方法を学んだ)。しかし、ロボットを教育するためにジェンガのタワーを何度も組み立てるのは、時間のかかる面倒な作業であるため、エンジニアらは少量のデータだけで済むアルゴリズムとアプローチを考え出したとFazeli氏は述べている。これによりロボットは、何万回ものタワーの組み立てを必要とする大量のデータセットを収集することなしに、300回程度の試行で学習を終えた。この効率的なアプローチでは、似たような振る舞いと結果をクラスタ化するようになっており、その後ロボットは、各データクラスタごとにモデルを作り出し、ブロックの見た目や感触から、そのブロックがどのように動くのかを予測したのだった。

このプロジェクトの目標は、ジェンガの達人を生み出すことではなく、人工知能(AI)が現実世界とやり取りする方法を向上させるというものだ。Fazeli氏は「これを産業での自動化に応用したいと考えている」と説明している。この技術は特に、ロボットによる組み立て作業解体作業といった、部品をどのようにして配置すべきかを理解する必要のある作業で有用となるはずだ。

Fazeli氏は「ジェンガのブロック間での相互作用を取り扱うこのロボットが持つような、有用な抽象化能力と、視覚や触覚の領域で物理作用を推論する能力は、産業分野の現場でロボットが有用な操作スキルを効率的かつ迅速に学習できるようにするうえでの重要なステップとなる」と述べている。

【no.277】熟練工が1週間かかる調整作業→AIは1日で完了 三菱電機と産総研がFA分野でAI活用

熟練工が1週間かかる調整作業→AIは1日で完了 三菱電機と産総研がFA分野でAI活用

菱電機と産業技術総合研究所は2月5日、工場の生産ラインの準備作業を効率化するAI(人工知能)技術を共同開発したと発表した。産総研が提供するAI技術を、三菱電機が自社のFA(ファクトリーオートメーション)機器やシステムに実装する。熟練工が時間をかけて行っていたFA機器の調整作業などをAIに代替させ、作業時間の短縮を図る。

AI工場の生産ラインにおける準備作業とは(切削加工の例)

生産現場では、FA機器やシステムの調整、機器を動かすプログラミングなどにかかる工数の増加や熟練工の減少が問題になっている。こうした課題を解決するため、FA機器やシステムの調整作業をAIで自動化しようと考えたという。

「パラメーター調整」「画像判定」「異常検知」を自動化

小さな電子部品をプリント基板の決められた場所に載せる実装機では、機械の振動を抑えながら素早く目標位置に停止するようAIがモーターを制御。これまでは、あらかじめ熟練工が1週間以上かけて2種18個のパラメーターを手動調整して制御していたが、少ない試行回数で最適なパラメーター値を見つける「ベイズ最適化」の手法を応用したことで8種720個のパラメーター調整を1日で完了できたという。

AI製造機械のパラメーター調整にAIを活用

レーザー加工機を用いた板金の切断加工では、経験の少ない従業員でも熟練工と同等の加工品質を維持できるよう、加工面の品質判定を画像認識AIがサポート。熟練工が目視で判断していた加工面のキズ、上面荒れ、溶融付着など5つのポイントをAIに判定させた。問題がある場合は、レーザーの焦点位置や加工速度、ガス圧力などあらかじめ設定された条件をAIが自動調整しながら最適な条件を見つける。

本来、ディープラーニングには数千~数万枚もの学習用データ(画像)と膨大な計算処理が必要になるが、画像特徴量の1つである「高次局所自己相関特徴」(HLAC)に注目したことで、必要な学習データ数と学習のための計算量の削減に成功したという。これに熟練工が蓄積してきた加工知識を合わせ、AIの学習効率を上げたとしている。

AIレーザー加工ではAIによる画像判定を活用

組み立て作業を行う産業用ロボットの「異常判定」もAIで自動化した。組み立て作業では力覚センサーでロボットに異常がないかを常時監視する。部品の欠損や異物混入などがあった場合はセンサー出力の波形が乱れるという。

AI産業用ロボットの異常検知もAIが自動判定

従来は熟練工が「どんな異常が起きたか」を都度確認し、各ケースに応じて異常処理プログラムを作成する必要があったが、この判定部分をAIが代替。あらかじめ起きうる異常と波形のパターンをセットでAIに学習させ、その学習結果を異常処理プログラムに組み込んだ。時系列データ分析向けの機械学習技術(時系列データに適した構造のニューラルネットワークであるLSTMなど)を用いたという。

【no.275】ボッシュがAIを全製品に搭載へ、自動運転用カメラにも…2020年代半ばまでに

ボッシュがAIを全製品に搭載へ、自動運転用カメラにも…2020年代半ばまでに

ボッシュ(Bosch)は1月30日、2020年代の半ばまでに、ボッシュの製品すべてにAI(人工知能)を搭載、またはAIが製品の開発・製造に関わるようにする計画を発表した。

ボッシュのAIセンターでは現在、多くの従業員が150件以上のプロジェクトに携わっている。そのうちの1つが、センサーシステムの「SoundSee」だ。このSoundSeeのアルゴリズムは、機械学習を応用しており、故障の兆候を聞き取ることができる。これにより、機械の故障を正確に予測できるようになり、メンテナンスコストの削減や生産性の向上につながるという。

このSoundSeeは2019年の中頃に、国際宇宙ステーションに送られる予定だ。ボッシュはこのソリューションを、自動車工学などの商業用途に活用できると想定している。

AIの進化のもう1つの例は、画像処理アルゴリズムとAIメソッドを組み合わせた自動運転用の多目的カメラだ。この自動車向けのインテリジェントなカメラは、歩行者を発見し、すぐにその挙動を認識・予測することができるという。

ボッシュの目標は、AIの世界大手の一社になることだ。この目標を達成するために、ボッシュは2021年までに社内のAIエキスパートの数を現在の1000人の4倍、4000人へ増員することを計画している。

【no.272】AIで”家電ごとの電気の使い方見える化技術” – 三菱電機

AIで”家電ごとの電気の使い方見える化技術” – 三菱電機

三菱電機は、同社のAI技術Maisart(マイサート/Mitsubishi Electric’s AI creates the State-of-the-ART in technology)を用いた”家電ごとの電気の使い方見える化技術”を開発したことを29日、発表した。

今回同社が発表したAI活用の技術は、新たな計測器を取り付けずにスマートメーターで計測した住宅全体の電力使用量から、家電ごとの電力使用量を推定するもので、電流センサなどの計測器を使う方法と比べ蓄積データ量が1%以下に抑制できるとしている。

【関連】インフォメティスと日東工業、AIを利用した電気代の見える化 >>

  • 「家電ごとの電気の使い方見える化技術」の概要(同社資料より)

    「家電ごとの電気の使い方見える化技術」の概要(同社資料より)

三菱電機公式Webサイト内 研究開発・技術<a href="http://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/randd/maisart/" target="_blank">「Maisart」</a>

三菱電機公式Webサイト内 研究開発・技術「Maisart」

三菱電機が取り組むAI「Maisart」(公式ページ内Maisart紹介サイト)は、キッチン家電や生活家電から住宅設備、映像機器、カーエレクトロニクスまで多くのジャンルの製品を手がける同社の知見をベースに、ニューラルネットワークにおけるノードへの枝のコンパクト化、事前学習の試行回数の低減、センサーデータの分類抽出などに力を入れている。

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2018年夏に東北電力がIoTやAI、ロボットなど新サービス開発のための「よりそうスマートプロジェクト」(ニュースリリース)では、モニター募集したユーザーを対象に家電別の電気使用量を推定し、メールやLINEで家電の使い方をアドバイスする試みを行っている。電気を使う魅力的な製品がいつのまにか矢継早に発売される時代だが、電気料金はできるだけ賢く、スマートに抑えたいというのは誰しもが思うところだ。

【no.271】活躍の場広げるAIアナウンサーの実力

活躍の場広げるAIアナウンサーの実力

NHKは人工知能(AI)を活用した音声合成により、ラジオで気象情報を発話するAIアナウンサーを開発した。山梨県を放送対象とする甲府放送局のラジオ気象情報で3月に実証する。AIアナウンサーは、NHK放送技術研究所(東京都世田谷区)と連携して開発した。甲府放送局の過去3年分の気象情報から抜粋した文章などをNHKアナウンサーが読み上げ、AIに学習させた。

AIが注意報や予報、雨量、風速など多様な気象データを話し言葉に変換する。文脈に合ったイントネーションや間の取り方、情報の取捨などNHKアナウンサーが持つ話術を再現できるか検証し、早期の実用化を目指す。山梨県は観光地として人気が高い富士山を有し、気象情報へのニーズが高いことなどから実証地域として選出した。AIアナウンサーは3月4―8日と、25―29日の3分間のコーナーで登場する。

NHKはAIによる音声合成で発話する3次元コンピューターグラフィックス(3DCG)のアナウンサー「ニュースのヨミ子」を地上波のニュースで起用している。NHKはこうしたAI活用がアナウンサーの働き方改革にもつながるとしている。

日刊工業新聞2019年1月29日

 

「ニュースの読み子」育成中

日刊工業新聞2018年3月27日

NHKは26日、人工知能(AI)による音声合成で発話するアナウンサーを開発したと発表した。4月から3次元コンピューターグラフィックス(3DCG)の女性アナウンサーとしてニュース番組に登場する。NHKの地上波ニュースにAIアナウンサーが登場するのは初めて。

開発したAIアナウンサーは「ニュースのヨミ子」。NHK放送技術研究所(東京都世田谷区)が開発した音声合成技術を活用した。NHKのアナウンス室の監修の下、長時間の音声収録を行って機械学習させた内容を発話する。

将来は相手の言葉を認識し、自由に会話できるAIアナウンサーに成長させていく。ニュース速報を自動的に読み上げる体制の構築などを目指す。

「ニュースのヨミ子」はNHKのニュース番組「ニュースチェック11」に登場する。4―5分のコーナーにおいてインターネット上で話題になったニュースなどを紹介する。

平昌五輪では実況で活躍

日刊工業新聞2018年2月20日

日本人選手のメダルラッシュに沸く平昌(ピョンチャン)冬季五輪。その舞台でNHKの新人アナウンサーが実況デビューを果たした。その名は「ロボット実況」。NHK放送技術研究所(放送技研、東京都世田谷区)が開発したその新人アナは、堂々たる声でアイスホッケーやカーリング、スケルトンなどの熱戦の模様を連日、伝えている。

「カナダ、ジョンストン選手のシュート。ゴール!」―。アイスホッケー女子、カナダ対OAR(ロシア出身選手で構成されたチーム)の一戦でロボット実況の声が響いた。新人アナらしからぬ女性の落ち着いた声で2時間以上の試合中継を無事にこなした。

ロボット実況は人工知能(AI)による音声合成技術などを活用して実現した。五輪期間中は国際オリンピック委員会(IOC)傘下で放送サービスを手がけるオリンピック放送機構(OBS)が試合経過の情報を記した競技データをリアルタイムで各国の放送事業者に配信する。

放送技研はその競技データを基に、即座に自動で日本語の実況文章を作り、音声を合成して生中継の配信映像に合わせて流すシステムを構築した。実況内容は字幕でも付与できる。放送技研ヒューマンインターフェース研究部の岩城正和部長は「OBSから配信される膨大な競技データからアナウンサーとして話すべき内容を自動で判断して実況できる」と強調する。

同システムは2016年のリオデジャネイロ五輪の全種目で内部実験を行っており、満を持してデビューした格好だ。23日まで毎日1競技程度実況する。ここまでの成果は上々で、NHKは「ライブ配信の映像に対してリアルタイムで実況を付与できている」と手応えを強調する。

五輪は多数の種目が同時に行われる。インターネット配信を活用することで多くの競技を中継できるようになったものの、中継で肝心の実況は人手の問題で付けるのが困難だった。ロボット実況はその代替になる。特にNHKとしては試合状況を音声や字幕で伝えることで、視覚や聴覚に障がいのある人が多様な競技の生中継を楽しめる環境を整える目的がある。

また、NHKは今回の配信について20年の東京五輪・パラリンピックでの活用に向けた試験と位置付ける。その意味では「配信される競技データが少ない種目は実況しない時間が多くなる」(NHK)という課題を確認した。このため今後は競技データ以外の情報の活用を模索し、内容の充実を図る考えだ。東京五輪・パラリンピックでは新人アナの成長した姿が期待できそうだ。

【no.270】AIカメラが「未成年」判別、居酒屋で実験 精度は96%超

AIカメラが「未成年」判別、居酒屋で実験 精度は96%

 

AI(人工知能)搭載カメラで、来店客が未成年かどうかを検知する――業務システムのクラウドサービスを展開するチャオ(東京都港区)は1月21日、養老乃瀧が展開する居酒屋「一軒め酒場 新橋店」で実施した実証実験の結果を発表した。未成年者の検知率は96.1%だったという。

実験では、AI搭載のクラウドカメラ「Ciao Camera」を使用。店員による確認漏れが多かったという来店者の年齢確認をAIを使って行い、未成年者へのアルコール提供を未然に防ぐことを目指した。

AI
実験の画像
実験の第1段階として、ディープラーニングを使った画像認識サービス「Amazon Rekognition Image」の顔認識機能を活用した。AIがカメラ画像から人物の顔を識別し、年齢結果を推定。未成年と思われる場合は店員に通知する。入店する数秒の間に来店者の顔画像を複数枚撮影したが、画質や顔の角度で誤検知もあったという。検知率は90.7%にとどまった。

次に、精度向上と通知までの時間を短縮するため、チャオは未成年かもしれない「要年齢確認者」を判別する独自の識別エンジンを構築。AIの判別結果を人間で精査し、AIに学習させることでモデルを作成した。大量のデータをAIが学習し続けることで精度を改善し、96.1%の精度で未成年を検知できるようになったという。年齢確認は身分証明書で行った。

 

【no.269】 AIで予測向上目指す 気象庁、理研と共同研究

AIで予測向上目指す 気象庁、理研と共同研究

気象庁は23日、理化学研究所の革新知能統合研究センター(東京)と提携し、人工知能(AI)技術を気象の観測や予測の精度向上に活用する研究を始めると発表した。同庁の気象情報は現在、降水量と降雪量の予測は2日先まで、風速は1日先まで。平成36年をめどに5日先まで延ばし、早めの防災対応を促せるようにする。

気象庁によると、気温や気圧、風の変化の予想にはスーパーコンピューターと複数の数値予報モデル(計算プログラム)を使っている。それらの計算結果をAIでスムーズ、適切に組み合わせ、予測の精度向上を目指す。例えば地域ごとの降水量予測、その誤差の範囲を5日先まで把握し、特別警報に匹敵する豪雨となる確率を算出できるようにもするという.

現在は予測が難しい台風の急発達について気象衛星の画像や各種データからAIで前兆を捉える研究も進めたいという。共同研究の期間は33年3月末まで。

【no.268】立教大が“AI特化”の大学院 国内初

立教大が“AI特化”の大学院 国内初

立教大学は1月21日、国内初となるAI(人工知能)に特化した大学院「人工知能科学研究科」(修士課程)を2020年4月に開設すると発表した。機械学習の数理モデルや統計学の知識を持つ「AIサイエンティスト」や、AI開発ができる「AIエンジニア」などの輩出を目指す。

立教「人工知能科学研究科」

機械学習やディープラーニング(深層学習)を中心としたAI領域について学習・研究できるカリキュラムを設置し、文理融合型プロジェクトを推進、各界を代表する企業との産学連携による社会実装にも積極的に取り組む環境を設けるとしている。

立教設置科目(予定)

また、AI活用に当たって重要な「ELSI」(Ethical,Legal, and Social Implications=倫理的、法的、社会的諸問題)を重点分野と捉え、1年次必修科目とする。

募集定員は63人、教員数は9人。平日6時限と土曜日を含む昼夜開講が中心になる。選考方法は4月下旬以降に公表予定。

今後は、全学部生がAIを学べる環境を整える他、博士課程の設置も検討するという。

【no.267】AIは非喫煙者の味方か、喫煙を取り締まる用途が続々登場

AIは非喫煙者の味方か、喫煙を取り締まる用途が続々登場

喫煙が身体に害を及ぼすという研究事例は多数存在するが、今回、機械学習を使った新たな研究結果が報告された。

米国の人工知能(AI)企業、Insilico MedicineのPolina Firsanova博士研究チームは、機械学習を使って、喫煙者・非喫煙者(成人14万9000人対象)の実年齢および健康年齢の乖離を調査した最新結果を、英国の科学専門誌「Scientific Reports」に公開した。

研究チームは、調査対象を年齢、性別、居住地域に分類し、血糖値、空腹時血糖値、鉄分、尿から排出される老廃物など各データを機械学習技術で分析。結果、30歳以下の喫煙者の半分以上が、健康年齢31~50歳と実年齢を上回ったと報告している。一方、非喫煙者の62%が実年齢と健康年齢が一致しているとの見解も併せて発表した。

喫煙が引き起こす問題を人工知能で解決しようという試みは、健康年齢の研究調査以外にもある。昨年10月には、マイクロソフトとガソリンスタンド大手シェルが協力し、スタンド内で喫煙している人を発見するAIソリューションを発表している。

またSoter Technologiesが開発した人工知能と連動したセンシング装置「フライセンス」は、校内における学生の喫煙を防ぐ用途で利用され始めている。またスマートカー分野でも、居眠り運転などに加え、車内での喫煙を判断するAIシステムの開発が着々と進められている。

そのような動向を見る限り、最新テックである人工知能は喫煙者の“排除”を促進する方向で利活用されていくのだろう。もちろん、法律やマナー違反は問題外だ。しかしながら、正直、喫煙者である筆者としては、「喫煙者のためにもAIを利活用して欲しい」と思わなくもない。

例えば、喫煙者でも健康を維持できる方法の研究(そのようなものがあるかは分からないが)にAIが用いられるとか、もはや壊滅していくであろう貴重な喫煙スペースをレコメンドしてくれるAIアシスタントなどがあったら便利だと思う。

いずれにせよ、人工知能に世の中の感覚を反映し作業を代替・効率化するという本質的特徴があるのだとすれば、“喫煙は悪”という社会的コンセンサスを拡大するのにも一役買っていくことだけは間違いない。「AIによって喫煙者の身はさらに狭くなった」。そう評価される時代が間もなく訪れそうである。